子どもの連れ去りは違法ですか?

2023/9/26

 

突然、配偶者(又は元配偶者)が子どもを連れ去った!そのような場合、どう対応したらよいのでしょうか。
今回、離婚協議中の夫婦において配偶者に子どもを連れ去られた場合、又は子どもを連れだした場合について解説いたします。

1 子どもの連れ去りはそもそも違法なの?

子どもの連れ去りの「違法性」とは、刑事上の責任の他、民事上の責任があります。
刑事上では、未成年者略取及び誘拐(刑法224条)が成立する可能性があります。
では、どのような場合に子どもの連れ去りが違法になるのでしょうか。

(1)離婚成立前は、父母の両方が親権者です。

そのため、一方が子どもを連れ去っても直ちに違法とはなりません。
しかし、子どもの福祉を害するような連れ去り行為については刑事・民事上違法となる可能性もあります。
具体的には

①子どもが嫌がるにもかかわらず、無理やり抱えて連れだした。

 ②学校等で待ち伏せして、子どもの意思に反して連れだした。

 ③家に押し掛けて子どもを連れだした。

といったケースです。
親権者以外が連れ去る行為に比べて、親権者が子どもを連れ去る場合、その違法性については慎重に判断されます。
しかしながら連れ去りの際の行為態様、子どもの状況、連れ去り後の監護状況等を総合的に勘案し、子どもの福祉を著しく害する場合には違法(刑事においては未成年者拐取罪に該当すると判断される可能性もあり)となる可能性もあります。

(2)違法とはみなされない場合

子どもの連れ去りにつき正当な理由があれば、仮に相手方に監護権が指定されているといった場合であっても、違法とならないケースもあります。
具体的には

①相手方によるDVから自身や子どもを守るために、子どもを相手方に無断で連れだす行為

②子どもの生命身体に危険が及ぶ可能性があった場合

③一時的に実家等に戻り、その期間が短期間である場合

このようなケースでは、子どもの連れ去り行為について違法とならない可能性が高いといえます。

2 親権獲得不利になることも~不利にならないためには~

では、違法に子どもを連れ去った場合、親権獲得に不利になることはあるのでしょうか。
この点、裁判所は、それまでの親子での親密平穏な生活を突如強制的に終了させ、親子関係を断絶させるという深刻な結果をもたらすことは許されないとし、違法に子どもを連れ去った場合、その後監護を継続していたとしても厳しく判断することがあります。

3 子どもを連れ去られた!対処方法

では、子どもを取り戻すため、どうしたらいいのでしょうか。
相手方に子どもを無断で連れていかれた場合、自力で取り返したくなるかと思いますが、いわゆる「自力救済」は更なるトラブル発生の危険性もあり、子どもの安全も担保できないことから適切ではありません。
子どもを取り戻すためには、法的手続を行うこととなります。

(1)子の引渡し調停(審判)

まずは、家庭裁判所において調停委員や裁判官が間に入り、父母が協議を行うものが「子の引渡し調停」です。
この調停ではあくまでも当事者同士の話し合いによることから、子どもを無断で連れ去ったケースではなかなか合意が見込めず、最初から調停ではなく審判を申し立てることが多いです。

(2)子の監護者指定調停(審判)

離婚協議中、父母のどちらが子どもと一緒に生活をするのか(監護者となるのか)争いになることがあります。
そのような場合、一旦、監護者(主に子どもの世話を行う人)を裁判所に指定してもらう、という方法(子の監護者指定調停(審判))があります。
子どもが相手方と一緒に生活している場合は、監護者指定だけでなく、子どもの引渡しも求め、家庭裁判所に子の監護者指定調停(審判)と、子の引渡し調停(審判)をセットで申し立てることとなります。

(3)審判前の保全処分

監護者指定、引渡調停(審判)は、合意又は裁判所の決定まで時間がかかることから、子どもの心身に危険が生じる等の緊急を要する場合、「子の引渡し審判」とセットで審判前の保全処分を申し立てます。
裁判所が保全処分を認めれば、仮に子の引渡しを命ずることができます。

(4)強制執行できる場合もある

上記の手続で子どもの引渡しが決定したにもかかわらず、相手方が引渡しに応じない場合、強制執行を行うことも可能です。
強制執行には、①直接強制と②間接強制の2種類があります。

 ①直接強制

家庭裁判所の執行官と一緒に子どものいる場所を訪れ、子どもを連れ帰る方法。

 ②間接強制

子どもを引き渡さない間、裁判所が相手方に一定の金銭支払いを命じ、金銭を支払わせることをもって心理的に圧迫し、子どもの引渡しを間接的に促す方法。
なお、審判前の保全処分に関して強制執行を行う場合は、相手方に裁判所から保全命令が送達されてから2週間以内に行う必要があります。
保全処分が認められる件数はそれほど多くはありませんが、認められそうな場合は、その後の強制執行の可能性も前提にスケジュールを組むことが必要となります。

(5)子どもの身が危険な場合の人身保護請求

上記の法的手続は、家事事件手続きによるものです。
これらの手続により子どもの引渡しが認められたにもかかわらず、実際には引き渡されない場合、より強力な方法として、人身保護請求を行うことがあります。
人身保護請求とは、子どもへの拘束が当該子どもの利益に反していることが明白である場合(拘束の顕著な違法性)、拘束されている子どもを取り戻す手続となります。
離婚協議中の父母については、双方親権者であることから、人身保護請求が認められるためには、「幼児が拘束者の監護の下に置かれるよりも、請求者に監護されることが子の幸福に適することが明白であることを要する」(最高裁平成5年10月19日)とされ、父母間の生活環境の比較程度では認められません。
一方で、引渡しの仮処分に従わない場合、子どもの健康が著しく損なわれている場合、義務教育を受けられないといった場合には、拘束に顕著な違法性が認められる傾向にあります。

4 まとめ

子どもが突然連れ去られると、パニックになり、実力行使で取り戻そうと考える方も多いかと思います。
しかし自力救済では、さらにトラブルが拡大する可能性が高く、法的措置を講じる必要があります。
子どもの引渡しに関する法的措置は、複数あり、速やかに申し立てる必要がある等、法的知見が必要な場面が多い案件となります。
そのため子どもが連れ去られてお困りの方は、なるべく早くに弊所までご相談下さい。


執筆者:弁護士 稲生 貴子

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