離婚後の養育費の平均相場は?支払わないとどうなる?

2022/12/20

 

子どもがいる夫婦が離婚する際の争点の一つとして「養育費」が挙げられます。
「養育費」という言葉をご存知の方は多いかと思いますが、「養育費はいくらもらえるの?」「どのような手続きをすればいいの?」「何歳までもらえるの?」「支払ってもらえない場合、どうすればよいの?」等、疑問や不安は尽きません。
このような養育費に関するお悩みを解決するために、養育費の内容、平均的金額、未払いの場合の対処方法等、解説いたします。

1 養育費とは?

養育費とは、「子どもの監護(子どもと一緒に生活すること)や教育のために必要な費用のこと」をいいます。
一般的に、子どもが経済的・社会的に自立するまでに要する費用であり、子どもを監護している親は他方の親から養育費を受け取ることができます。

・養育費の内訳

養育費は、「衣食住に必要な経費」「学校教育費」「医療費」等が挙げられ

①「衣食住に必要な経費」には、衣服代、食費、家賃等

②「学校教育費」には、入学金、学費、教材費、習い事の費用、留学費用等

③「医療費」には、通院治療費、入院費、薬剤費等

が含まれます。
子どもと同居していない親にも、子どもが経済的に自立するまでの間、上記の各費用を負担する義務があります。

2 離婚後の養育費の金額相場(平均)

では、養育費は一体いくらもらえるのでしょうか。
厚生労働省が平成28年度にひとり親世帯を対象に行った調査によると、1か月あたりの平均養育費は、母子家庭で4万3707円、父子家庭で3万2550円(平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告)と、十分な額ではないと感じられる方も多いかと思います。

(1)養育費を決める計算方法

子どもを育てるにはお金がかかることから、できるだけ多くの養育費を支払って欲しい、というのが本音かと思います。
当事者の話し合いで養育費について満足な合意ができれば、それに越したことはありません。
しかし養育費について合意ができないケースも多く、いくら養育費が請求できるのかが問題となります。
では、養育費はどのように計算するのでしょうか?
裁判所で養育費の金額を争う場合、双方の収入や子どもの人数、その他の事情を考慮して細かな計算を行うことがあります。
しかし、計算内容が煩雑なため、養育費の目安として「養育費算定表」を利用することが大半です。
養育費算定表ですが、①裁判所が作成したものと、②日本弁護士連合会が作成したものがあります。

①裁判所が作成したものは、年収や子どもの数・年齢等を参考に養育費を計算し、全国の家庭裁判所で参考資料として用いられています。

②日本弁護士連合会が作成したものは、裁判所作成のものに比べて子どもの生活費が高く設定する等、計算方法が少し異なる結果、裁判所作成の算定表より養育費が高く算定される傾向にあります。

養育費について協議が整わない場合、調停を行うこととなり、調停では①裁判所作成の算定表を参考とすることから、協議の時から裁判所作成の算定表を利用することが多いです。
次に①裁判所作成の養育費算定表についてご説明いたします。

(2)子どもの人数、年齢によって金額は決まる

①裁判所作成の養育費算定表は、子どもの人数(1から3人)、年齢(0歳から14歳、15歳以上)の組み合わせにより9つの表で構成されています。
表の縦軸には、支払側の年収、横軸には請求する側の年収が記載されています。
子どもの人数・年齢から該当する表を選び出し、父母の年収を基に、縦軸と横軸の交わる部分が養育費の額となります。
なお、年収は「給与」と「自営」に分かれているので、サラリーマンの方は「給与」部分、その他の方は「自営」部分をご参考下さい。

※ご興味のある方は「平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について」こちらのリンクより算定表をご覧ください。

養育費算定表は、本来複雑な計算式により算出する養育費額を、簡単に算定するために作成されました。
そのため、算定表の金額は、あくまでも子どもにかかる一般的な費用で算出され、あくまでも目安となる金額です。
一般と異なる事情があるケースでは、算定表の金額を超えて請求できる場合があります。

(3)養育費算定表の金額以上はもらえない?

養育費算定表から算出する養育費額はあくまでも目安です。
そのため相手方が合意さえすれば、算定表記載の金額を上回る養育費を支払ってもらうことも可能です。
また、離婚前から子どもが私学に通い高額の学費を負担しているといった特別の事情がある場合は、算定表の金額以上の養育費を請求できる場合があります。
算定表通りの請求をする前に、算定表より高い金額を請求できるケースか否か、弁護士などの専門家に相談し、それぞれの事情にあった養育費の請求を目指しましょう。

(4)養育費はいつまでもらえる?

子どもは自分で生活費を用意できず、経済的に自立が困難です。
そのため、基本的に子どもが精神的・経済的に自立可能となる年齢、すなわち「成年年齢」まで、養育費の支払義務があります。
子どもが大学へ進学する場合は、成年年齢に達したあとでも経済的自立が難しいケースが多いことから、子どもの進学や経済的に自立するタイミングも踏まえたうえで、養育費の支払終わり時期を協議します。
実際には、20歳もしくは22歳(大学等教育機関を卒業するまで)といずれかに決める方が多いです。
子どもの実情に合わせて、支払終期を協議しましょう。

(5)成年年齢引き下げによる支払期間への影響

令和4年4月に成年年齢が20歳から18歳に引き下げられました。
同月までに「子どもが成人するまで養育費を支払う」と取り決めしていた場合、支払い終期が18歳に変更されてしまうのでは、とご不安に思う方もいるでしょう。
しかし、取り決めを行った時点で成年年齢が20歳であれば、支払い終期は18歳に変更されず20歳のままとなります(法務省HP)。

3 養育費の金額は変動する?

養育費は一度取り決めると最後まで変更できないのでしょうか。
この点、収入等の経済的事情やその他の事情の変更によっては、増減可能な場合があります。
なお、経済的事情が変わったからといって自動的に増減されるものではなく、相手方と交渉・協議する必要があります。
次に、養育費が増減されるケースについて具体的に説明します。

(1)養育費が減額する場合

養育費を支払う側の収入が減ったり、失業、病気で働けなくなった場合には、養育費が減額されることがあります。
また養育費を受け取る側の収入が増えた場合も、子どものためにかかる費用の負担割合が減るため、養育費が減額されることがあります。

(2)養育費が増額する場合

養育費は子どもが安定した生活の中で健やかに成長するため必要なものです。
そのため、経済的事情が悪化し、子どもの生活が困窮する場合には、養育費が増額できる可能性があります。
例えば、養育費を受け取る側の収入が大幅に減少したり、病気で働けなくなった場合には養育費を増額できる可能性が高まります。
また、子どもが病気等で多額の出費を要するときにも、養育費の増額が可能となるケースがあります。
このようなご事情がある場合には、相手方に養育費の増額を相談し、協議に応じてもらえない場合は弁護士にご相談下さい。

(3)養育費が支払われなくなったら

養育費を定めても、途中で支払いがストップすることがあります。
単なる払い忘れや意図的に支払いを停止する等、理由は様々です。
まずは相手方に催促をしてみましょう。
方法は問いませんが、より相手方に心理的プレッシャーを与えるため内容証明郵便の利用が効果的です。
催促によっても支払われない場合、公正証書や裁判所の調停・審判で養育費を定めていれば、相手方の財産を差し押さえる強制執行が可能です。将来的に不払いのリスクもあるため、協議で養育費を定める場合は、強制執行が行えるよう公正証書の作成をお勧めします。

4 夫婦どちらかが再婚した際の養育費はどうなる?

離婚後、どちらかが再婚した場合、養育費の額を変更できる場合があります。
元妻側が子どもを監護し、元夫側が養育費の支払義務を負っているケースで考えてみましょう。

(1)元夫が再婚した場合

元夫が再婚しただけでは養育費は減額されないことがほとんどですが、連れ子と養子縁組を行ったり、また再婚後に子どもが生まれた場合には、元夫が扶養する子どもの人数が増えるため、元夫側から養育費の減額請求が可能となります。
いくら減額されるかは、子どもの人数や、元夫の配偶者の年収等、様々な要素から総合的に判断されます。
また、減額に必ずしも応じる必要はなく、協議が整わない場合は、元夫から養育費減額調停の申立てを行うこともあります。

(2)元妻が再婚した場合

元妻が再婚しただけで養育費が減額されることはありません。
再婚した相手と子どもが養子縁組をすれば、子どもの第一次的扶養義務者が再婚相手方となり、元夫の扶養義務がその分軽くなり、養育費の減額が認められることがあります。
再婚相手の年収に応じて、元夫もの養育費支払い自体が免除になる場合や、一部減額にとどまるケースもあります。

5 まとめ

養育費は、子どもを監護していない親が、子どもを監護している親に対して支払い義務を負うもので、子どものために必ず必要なものとなります。
子どものためにも、離婚の際、養育費についてしっかりと協議するようにしましょう。
また、養育費について合意を行っても途中で支払いがストップすることがあります。
速やかな強制執行手続きに移るためにも、養育費について協議で合意した場合は、できるだけ公正証書を作成しましょう。
子どもに関わる事柄であることから、まずは当事者同士で協議することが望ましいです。
しかしながら、当事者同士の協議では時間や労力がかかり、精神的ストレスも多いことから、ご自身での解決が難しいとお考えの場合は、お気軽に弁護士にご相談下さい。
養育費の支払がストップした場合も、一人で悩むことなく、弁護士にご相談下さい。


執筆者:弁護士 稲生 貴子

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