新たに導入された「共同親権」とは?
2024/8/24
令和6年5月17日、共同親権を定める改正民法が成立しました。
(民法改正!共同親権等、改正民法が気になる方へ)
今回の民法改正により、離婚時に単独親権の他、共同親権も選択することが可能となりました。
本コラムでは、新たに導入される離婚後の「共同親権」について、その定め方、施行時期、問題点等をご紹介します。
1 離婚時の親権の定め方
これまでの日本では、子どもの父母が婚姻している場合、原則として父母の両方が親権者となり(共同親権)、離婚時には父母のいずれかを親権者と定める必要がありました(離婚後は単独親権のみ)。
これに対して今回の法改正では、
①父母のいずれかが親権者となる「単独親権」
に加えて、
②父母の両方が親権者となる「共同親権」
が選択可能となりました。
改正民法819条1項
「父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その双方又は一方を親権者と定める。」
離婚協議において、夫婦間の話し合いにより、単独親権とするのか、共同親権とするのか決めることとなります。
話し合いでの決定が難しい場合は、裁判所に申し出て、単独親権か共同親権かを定めることとなります。
改正民法819条2項
「裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の双方又は一方を親権者と定める。」
2 共同親権の具体的内容
離婚の際に共同親権を選択すると、両親ともに、離婚後も親権者として子どもの監護養育に関わっていくことが可能となります。
しかしながら、共同親権を選択した場合であっても、子どものあらゆる行為について関わることができるというものではありません。
・「監護及び教育に関する日常の行為」(食事や日用品の購入等)
・「緊急の事情」(緊急で手術を行う場合の同意)等
については、単独で親権の行使が可能です(改正民法824条の2 1項)。
しかし、例えば「進学」といった日常行為ではない事柄については、親権者双方で協議し、決定しなければなりません。
親権者双方での協議で決められない場合は、裁判所に判断してもらう手続きが必要となります(改正民法824条の2 3項)。
3 裁判所が共同親権を認めない場合
父母の一方のみが共同親権を求めて裁判所に申立てを行った場合、裁判所は、「子の利益のため、父母と子との関係、父と母との関係その他一切の事情を考慮」(改正民法819条7項柱書)し、共同親権を認めるか否かを判断します。
その際、
①父又は母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると認められるとき
②父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動を受けるおそれの有無、・・・協議が調わない理由その他の事情を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき
上記①又は②に該当するとき
③その他の父母の双方を親権者と定めることにより子の利益を害すると認められるとき
は単独親権と定めなければならない、とされています(改正民法819条7項柱書)。
つまり、主に
・共同親権を求める側が子どもを虐待しているケース
・共同親権を求める側が他方配偶者にDVを行っているケース
では、裁判所は共同親権を認めず、単独親権と定めなければなりません。
4 共同親権はいつから選択可能?
実際に共同親権が選択可能となる施行日は、改正民法の公布後2年以内と決まっています。
現時点(令和6年8月)ではまだ施行されていませんが、令和8年5月24日までには、実際に共同親権が選択可能となる予定です。
現在、離婚協議中の方については、施行日までに離婚が成立する場合、共同親権を選択することはできません。
しかし、施行日までに離婚が成立し、単独親権となっている場合でも、共同親権への変更を裁判所に申し立てることが可能です。
既に離婚が成立している人も、共同親権へ変更するよう求めることが可能であることから、共同親権に関する改正法の施行日後は、離婚後の子どもの親権を取り巻く環境が大きく変わることが予想されます。
5 共同親権のメリット、問題点
共同親権は、離婚後も父母が親権者となり子どもの監護養育に携わることを可能とし、子どもへの虐待等がある場合を除いては、子どもの心身の健やかな成長につながることが期待できます。
しかし、一方で、共同親権とすることで児童虐待やDVが継続するのではないかという懸念が存在することも事実です。
裁判所において単独・共同親権いずれとするのか判断するにあたり、児童虐待等がある場合には単独親権とする、という条文上の規定はあります。
しかし、虐待やDVは密室で行われることが多く、客観的証拠に乏しいケースもあることから、その事実が見逃される可能性も否定できません。
そのため、離婚後においても虐待やDVが発見可能な仕組みを整備する必要があるのではないでしょうか。
また、改正法では、共同親権を選択した場合、父母がどのように子育てに関わるかは基本的に父母の協議によって決めることができるとされており、定型的なものが指定されているわけではありません。
そのため、共同親権の場合、離婚後の監護状況をめぐる紛争が新たに発生する可能性もあるのではないかと考えます。
6 今後について
共同親権導入には、メリットだけでなく問題点も山積しています。
問題点解決のため、施行日までの間、各関係機関で必要な準備手続きが進められることが予想されます。
進捗が分かればまた本コラムでご紹介していこうと思います。
引き続きよろしくお願いいたします。
執筆者:弁護士 稲生 貴子