交通事故の治療費打ち切り!?対処法とは
2024/2/26
交通事故に遭いけがをした際、加害者が加入する任意保険会社に治療費を負担してもらうことが一般的です。
その場合、任意保険会社は、事故から一定期間が経過すると、被害者に対して治療費の支払いの打ち切りを連絡してきます。
本記事では、治療費支払いの仕組みや保険会社がなぜ打ち切りをするのか、そして被害者が適切に対処する方法について詳しく解説します。
1 治療費支払いの仕組み
自動車保険は、強制加入である自賠責保険と、任意加入の任意保険があり、任意保険は自賠責保険では補うことのできない損害を補填する保険です。
交通事故に遭ってけがをした場合、加害者の任意保険会社が自賠責保険で支払われる分もまとめて治療費を負担することが一般的です。
このことを「一括払い」「任意一括対応」「一括対応」などと呼びます。
任意保険会社は被害者への一括払いの後、自賠責保険で支払われる部分については自賠責保険会社から回収します。
2 なぜ保険会社は治療費を打ち切ろうとするの?
任意保険会社は、通院から一定期間後に支払いを打ち切りの連絡をしてきます。
連絡が来るタイミングはけがの程度、治療内容、担当者などによって様々ですが、いわゆるむち打ち症の場合は3~6か月程度で連絡が来ることが多いです。
任意保険会社が治療費を打ち切ろうとする理由は以下のとおりです。
(1)自社の負担する費用を抑えたい
任意保険会社が治療費の一括対応をする場合、自賠責保険で補償される範囲については自賠責保険から回収できますが、自賠責保険では補えない損害は任意保険会社が負担することになります。
そのため、治療が長期間になると、その分任意保険会社が負担する治療費や慰謝料の額が高額になってしまうため、負担を少しでも抑えるために、治療費の支払いの打ち切りを連絡してきます。
(2)詐病、必要のない長期治療を防ぐため
また、被害者の中には、実際には痛みなどの症状がないにもかかわらず、慰謝料や休業損害の獲得を目的に嘘をついて通院を継続するケースがあります。
こうした保険金詐欺や不必要な治療を防ぐためにも、治療費の打ち切りは行われます。
3 治療費打ち切りへの対処法
治療費の打ち切りの連絡は、任意保険会社の一方的な判断でなされます。
しかし、打ち切りの連絡があったからといって、まだ痛みや痺れなどの症状が継続している状況であれば、すぐに通院をやめるべきではありません。
任意保険会社に対して治療費の支払いを継続してもらえるように交渉することも可能です。
(1)治療は継続、主治医と相談
任意保険会社から治療費の打ち切りをされたとしても、治療をやめなければならないということではありません。
症状によっては、一旦自己負担で治療を継続することも重要です。
治療の継続をすることは、以下の3点から重要です。
①治療の効果が見込める
まだ治療の継続によって治療の効果が見込める場合は治療をやめるべきではありません。
無理に治療を切り上げてしまうと症状が悪化してしまう可能性があるからです。
まだ治療が必要か否かは主治医の先生と相談する必要があります。
②後遺障害認定のため
通院治療を行っても、これ以上改善が見込めない状態になることを症状固定といいます。
症状固定後も関節の機能に障害が出たり、痛みが軽減されない場合は後遺障害が認められる可能性があります。
もっとも、治療期間があまりにも短い場合は治療により改善の余地があるか否かの判断ができないため、後遺障害の認定もできません。
後遺障害認定の適切な判断のためにも、一定期間の通院は必要です。
③慰謝料などの増額
慰謝料は、裁判基準によると通院期間に応じて算出されることが一般的です。
この場合、治療を継続することで慰謝料の金額の増額が見込まれます。
(2)保険会社に治療費の支払い延長交渉
任意保険会社から打ち切りの連絡があったとしても、まだ痛みや痺れなどの症状が継続している状況であれば、すぐに通院をやめてしまうのではなく、任意保険会社に対して治療費の支払いを継続してもらえるように交渉することが可能です。
交渉をする際には、治療の継続が必要である旨の主治医の意見書があれば説得的です。
また、ご自身で支払いの交渉をするのは負担に感じられる場合は、交渉の専門家である弁護士に依頼することも可能です。
4 打ち切り後の治療費
任意保険会社から治療費の支払いを打ち切られてしまった場合は、以下のような各種保険を利用した治療の継続を検討することが考えられます。
(1)自身の自動車保険の人身傷害保険で支払ってもらう
被害者自身が人身傷害保険に加入している場合は、人身傷害保険で治療費の支払いができる場合があります。
人身傷害保険は利用しても保険の等級は下がりません。
(2)健康保険を使用して治療を継続
健康保険を利用して通院を継続することも可能です。
健康保険を利用することで治療費の負担を3割に抑えることができます。
健康保険で自己負担した金額は相手方保険会社に支払を求めて交渉することが可能です。
(3)加害車両に付保されている自賠責保険に被害者請求
治療費は相手方の任意保険会社だけではなく、自賠責保険からも補填が受けられますので、相手方の自賠責保険会社に直接請求することができます。
ただし、既に自賠責保険の支払い上限額まで支払われている場合は請求できません。
5 打切りされにくくするポイント
適切な治療を継続するためにも、打ち切りをされやすくなるような行動は避けるべきです。
治療の際は以下のポイントに注意して通院をしましょう。
(1)適正な頻度で通院
通院の頻度は医師の指示のもと、症状に応じた適正な頻度で通院しましょう。
通院頻度が少なすぎると、治療の必要がなくなったと判断される可能性があります。
逆に通院頻度が多すぎると、過剰な通院と判断される可能性があります。
(2)整骨院への通院を避ける
けがの治療は原則として病院で治療すべきものとされています。
そのため、整骨院への通院は医師の許可がある場合などに限られ、病院での治療を補完する役割に過ぎません。
病院に通院することなく整骨院に通院することは治療とみなされず、早期に打ち切りをされやすくなります。
(3)医師に症状をしっかり伝える
病院では医師に痛みが生じている部位や症状について漏れなく伝えるようにしましょう。
治療当初のカルテに症状の記載がなければ、事故との関係が疑われたり、治療の必要がないとして打ち切りがされやすくなります。
(4)自己判断で通院中断しない
症状が改善してきたと自己判断して通院をやめてしまうと、治療の必要がなくなったものと判断され、支払いを打ち切られる可能性があり、その後症状が再発したとしても自己負担で治療をしなければならなくなる可能性があります。
通院を終了する場合は主治医と相談するようにしましょう。
(5)健康保険を使ってほしいと言われたら利用する
被害者にも一定の過失割合が認められる場合は、任意保険会社から健康保険を利用するように言われることがあります。
健康保険を利用すると、治療費が保険診療の金額となり、自由診療の場合よりも金額が抑えられます。
そうすると、治療費が低額に抑えられる分、長く通院することが認められやすくなります。
6 まとめ
本記事では、治療費支払いの仕組みや保険会社がなぜ打ち切りをするのか、そして被害者が適切に対処する方法について解説しました。
治療費の打ち切りの問題は多くの被害者が困るポイントの一つであり、任意保険会社との交渉が必要になる問題です。
交渉については専門知識をもった弁護士がすることにより有利に進められることが多いので、弁護士にご相談ください。
弁護士費用特約が利用できる場合は相談料やご依頼に費用は掛からないため非常に便利です。
執筆者:弁護士 森本 禎
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