取締役の責任や義務とは
2023/9/27
取締役は、会社の意思決定に関与し、会社を動かすことができますが、それに伴って会社法上重い責任や義務を負うことになります。
今回は、取締役の責任や義務について解説します。
1 取締役と会社員の違い
取締役と会社員の地位は、主に⑴契約形態、⑵義務の内容、⑶解任のリスクなどが大きく異なります。
(1)契約形態が異なる
会社員は、会社との間で雇用契約を締結しています。
会社員は労働基準法等の法律によって、賃金や労働時間、休暇などの点において保護を受けます。
これに対して、取締役は会社との間で委任契約を締結しており、会社員とは契約形態が異なります(会社法330条)。
取締役は労働基準法上の労働者にはあたらないので、保護の対象ではありません。
(2)取締役としての義務
取締役が負う義務としては、主に善管注意義務(会社法330条、民法644条)と忠実義務(会社法355条)の2つがあります。
善管注意義務とは、取締役が業務を行うにあたって会社に損害を与えないように注意する義務のことをいいます。
忠実義務とは、取締役が法令、定款、株主総会決議を遵守し、会社のために忠実にその職務を遂行する義務のことをいいます。
(3)解任される恐れがある
会社員を解雇するためには、労働契約法上の解雇規制があり、解雇をすることに客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められない限り、会社が自由に解雇することはできません。
しかし、取締役の場合は、労働者のような規制は無く、株主総会決議があれば、いつでも解任されるリスクがあります(会社法339条1項)。
2 取締役の責任や義務(対会社)
取締役は会社に対して主に以下の責任や義務を負います。
(1)善管注意義務と忠実義務
取締役が善管注意義務と忠実義務を負うことは前述のとおりです。
例えば、自らが違法行為を行うことや、他の取締役を監視し、違法行為を行わないようにする義務なども課されています。
(2)利益相反取引について
取締役は、自由に会社と取引をすることは許されず、株主総会や取締役会の承認を受けなければなりません(会社法356条1項2号、3号、365条)。
取締役と会社の間で自由な取引を認めてしまうと、例えば取締役が会社に財産を譲渡す際に、不当に高い金額で譲渡することが生じ得るなど、会社財産に悪影響が生じる可能性があります。
そういったことを避けるために、制度的な保障として、株主総会や取締役会の承認を得るものとし、会社財産が取締役の一存で毀損されないようにしています。
(3)競業について
取締役が会社の事業と競合する事業を行うことは、会社のノウハウや顧客を奪う危険性があり、会社に不利益となるので、自由に行うことはできません。
取締役が会社の事業と競合する事業を行う際には、事実を開示したうえで、株主総会や取締役会の承認を受けなければなりません(会社法356条1項1号)。
(4)損害賠償責任
取締役が上記の義務等に違反し、会社に損害を与えた場合は、当該取締役は会社に対して損害を賠償する責任があります(会社法423条1項)。
3 取締役の責任や義務(対第三者)
取締役は、直接委任契約を締結する会社に対する責任のみならず、会社の債権者などの会社以外の第三者に対しても以下のような責任を負っています。
(1)損害賠償責任
会社は経済社会において重要な地位を占めており、会社の活動は取締役の職務執行に依存しています。
そのため、会社に対してのみならず、第三者に対しても保護をする必要があることから、取締役の職務行為によって第三者に損害が生じた場合は損害賠償責任を負います(会社法429条1項)。
(2)損害賠償請求要件
もっとも、どのような場合でも損害賠償責任を負うのではなく、以下のような要件を充足した場合に取締役に損害賠償責任が認められます。
①任務懈怠
まず、取締役が会社に対する任務を怠ったことが必要です(任務懈怠)。
任務懈怠になる場合とは、前述のように善管注意義務・忠実義務に違反する場合や、民法、会社法、刑法等の法律に違反する場合などです。
②悪意・重過失
また、取締役が任務懈怠行為について悪意(知っていること)または重過失(著しい不注意があること)であることが必要です。
③損害発生の有無
次に、第三者に損害が発生していることが必要です。
損害というのは、取締役の任務懈怠行為によって、第三者が直接損害を被った場合(直接損害)のみならず、取締役の任務懈怠によって会社が損害を受けた結果、第三者に損害が及んだ場合(間接損害)も含まれます。
例えば、会社がほどなく倒産し、代金の支払いが困難になることを認識しつつ、取引先から仕入れを行い、取引先に代金相当額の損害を与えた場合は直接損害となります。
また、取締役が会社にリスクの高い投資に多額の資金を投入させ、その後回収が困難となり、会社に損害が生じて債務超過に陥った結果、その会社の債権者の有する債権の回収が困難になった場合は間接損害となります。
4 責任を怠った場合は?~経営判断の原則~
先ほど、取締役に損害賠償責任が認められるためには、当該取締役に善管注意義務・忠実義務に違反することが必要であるとお伝えしました。
もっとも、善管注意義務・忠実義務違反に関しては、経営判断の原則というものに注意が必要です。
(1)経営判断の原則とは
経営判断の原則とは、善管注意義務・忠実義務違反の判断にあたり、①経営判断の前提事実について十分な調査、情報収集が行われたか、②意思決定の過程、内容に著しく不合理な点がなかったかを検討し、取締役が十分な注意義務を尽くしていたかどうかを判断するものです。
会社の経営には常にリスクが伴うものであることから、結果を重視して責任追及を認めれば、会社経営の委縮に繋がるため、上記のように、経営判断に取締役の裁量を認めるものです。
ただし、故意の法令違反行為や利益相反が問題となる場合などについては、経営判断の原則の適用がないので注意が必要です。
(2)責任を怠った場合(対会社)
会社に損害が生じた場合であっても、経営判断の原則によって善管注意義務違反がなく、取締役の責任が否定されることがあります。
例えば、①経営判断の前提事実について十分な調査、情報収集が行われたかという点に関しては、弁護士等の専門家の意見を聴取したかという点などが考慮され、②意思決定の過程、内容に著しく不合理な点がなかったかという点に関しては、経営会議を重ねたか否かという点などが考慮されます。
どの程度調査を行ったかや意思決定を慎重に行ったかなどについては、判断を求められる事柄の性質によって異なってくるので、これをしていれば責任を取らなくてよいということは言えません。
(3)責任を怠った場合(対第三者)
取締役の第三者に対する責任追及の場面でも、会社に対する責任の場合と同様に、経営判断の原則が考慮されます。
したがって、会社に損害が生じた結果、会社債権者などの第三者に損害が生じた場合であっても、経営判断の原則によって善管注意義務違反がなく、取締役の責任が否定されることがあります。
5 まとめ
上記のように、取締役の責任は、一般の労働者に比べて極めて大きなものになります。
また、会社の規模が大きくなればなるほど責任を負う額も大きくなる可能性が高くなります。
そして、具体的にどの程度の責任を負うかは個々の事情によって異なってきますので、トラブルになった場合は早めに弁護士にご相談ください。
また、トラブルを回避するためには、トラブルが生じていない段階で弁護士に相談したり、弁護士と顧問契約を締結するなどの対策も可能ですのでご検討ください。
執筆者:弁護士 森本 禎
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