離婚した相手が自己破産!慰謝料、財産分与はどうなる?

2023/2/27

 

「離婚した元夫(元妻)が自己破産した!」

未払いの慰謝料、財産分与、これからの養育費の支払いについてどうなるの?払ってもらえないの?
離婚が解決した後に、突然このようなトラブルに見舞われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
破産=これから何も払ってもらえない、とお考えになる方は多いかと思いますが、相手方が破産しても全ての支払いが受けられなくなるわけではありません。
今回は、離婚した相手が自己破産した場合について、詳しく解説いたします。

1 離婚した相手が自己破産

自己破産とは、財産や収入が不足し、借金返済の見込みがない場合、もう返済の見込みがないことを裁判所に認めてもらい(支払不能)、法律上、借金の支払義務が免除される手続きをいいます。

2 自己破産後の慰謝料について

破産手続きにおいて、どんな借金でも必ずしも免責が認められるわけではありません。
借りたお金をギャンブルや浪費で使った、このような場合にまで無条件に免責するのでは、破産しない人と比べて不公平となります。
そのため、予め法律で「非免責債権」(自己破産しても消えない借金)に該当した場合、支払義務は残ったままとなります。

「非免責債権」の種類は、

①税金、国民健康保険料など

②扶養義務に基づく支払い

③養育費

④悪意(害意)をもって行われた不法行為に基づく損害賠償

⑤人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償

の5つです。

(1)「免責」される慰謝料

離婚に関する慰謝料について、

④悪意(害意)をもって行われた不法行為に基づく損害賠償

⑤人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償

に該当すれば、支払義務がなくならないですが、離婚の際の慰謝料の発生原因である「不貞行為」は、害意をもって行った・生命身体を害した、と言えるケースは少なく、免責される可能性が高いです。

(2)「免責」されない慰謝料

一方で、離婚原因がDVといった生命・身体を害する行為の場合は、⑤人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償に該当し免責されず、破産後も支払いを受けられる可能性があります。

(3)「免責不許可」の場合

なお、破産を申し立てても、場合によっては破産が認められないこともあります。
そのような場合を「免責不許可」といい、財産を隠したり、ギャンブルや浪費で借金した場合等に不許可となるケースがあります(破産法 第252条 第1項)。
免責不許可となった場合は、不貞による慰謝料であっても、支払義務は従前どおり残ることとなります。

3 自己破産と離婚問題

離婚に当たって、離婚成立までは婚姻費用が、離婚後は養育費の支払義務が発生することがあります。
また、離婚成立後に財産分与を行うケースもあります。
そのような場合に、相手方が破産すれば、もう支払いを求めることができなくなるのでしょうか。

(1)婚姻費について

離婚成立までの間に、夫婦の扶助義務に基づき婚姻費用が発生します。
未払いの婚姻費用について、離婚成立後に清算することもありますが、清算前に相手方が破産すれば、もう請求できなくなるのでしょうか。
この点、夫婦の扶助義務に基づく生活費の支払いは免責されることはなく、相手方は破産後も未払い分について支払う義務があります。

(2)養育費について

養育費についても、自己破産した後も消えることはなく、相手方は支払う必要があります。
特に養育費については、長期間にわたって支払ってもらうことが多いため、単に口約束だけでなく、契約書・合意書を作成することが望ましいです。
一般的に破産を申し立てる人は、破産申立てを行う前から養育費の支払いを滞らせることが多いです。
そのため、未払婚姻費用や養育費の協議が整った際には、公正証書を作成し、強制執行手続きにすぐにうつることができるよう準備しておくことをお勧めいたします。

(3)財産分与について

財産分与について、支払義務者が破産する場合に問題となる点は、

①財産分与の合意の否認(取消し)⇒既に支払ってもらった財産分与を返す必要があるか

②取戻請求の可否        ⇒特別な手続きによらずに、財産分与を請求できるか

③財産分与請求権の免責     ⇒分与を履行してもらっていない場合、請求できなくなるのか

が挙げられます。

①財産分与の合意の否認(取消し)

①については、全て返還しろと言われるのではありません。
財産分与が「不相当に過大」である場合、過大な部分を取り消し、返還が求められることがあります。
何をもって過大とするかについては、色々と考えがあり個別具体的に異なってきます。
離婚協議の際に、既に相手方が破産しそうな場合は、特にご注意下さい。

②取戻請求の可否

②について、財産分与の対象が夫婦共有財産であったとしても、取戻権はなく、一般の債権者と同じく破産手続きの中で債権者として権利を主張するしかありません。

③財産分与請求権の免責

③について、財産分与は婚姻費用や養育費のように法律上の特別の保護が与えられているものではなく、破産により免責=支払いが免除されることとなります。
そのため、財産分与を長期的に行う場合は、相手方が破産した際のリスクも念頭に行った方がよいでしょう。

4 まとめ

以上のことから、離婚成立後に相手方が破産した場合であっても、全ての支払いが免除されるわけではありません。
とはいえ、一部支払いを受けることができなくなるものもあります。
そのため、離婚協議の段階において、相手方から確実に財産を獲得するため、予め方針を検討した上で、交渉することが重要となります。
離婚後に相手方が破産してお困りの方はもちろんのこと、これから離婚協議を行う人も、相手方からの養育費等支払いを漏れなく受け取るためどのような方法があるか検討するにも、まずは弁護士にご相談下さい。


執筆者:弁護士 稲生 貴子

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