DVで離婚はできる?離婚慰謝料、準備、対処法について解説
2023/1/13
夫婦間におけるDV被害において、ご自身が被害にあっていること自体気づけない状況にある方もいらっしゃいます。
「自分が悪いから」「自分さえ我慢すれば」といった考えのもと、我慢を強いられ、長年苦しまれている方も少なくありません。
DV被害の内容は様々ですが、離婚ができるケースも多くあります。夫からのDVに限らず、妻からのDVであっても離婚原因とすることは可能です。
今回、DVを理由に離婚を進めるにあたって、どのような準備をすべきか注意点とともに解説いたします。
1 DVは離婚原因になる?
DV(ドメスティックバイオレンス)とは、配偶者のみならず、事実婚の相手や同棲相手等から受ける暴力全般をいい、暴力の形態はさまざまです。
⑴殴る・蹴る等の身体的DV
⑵暴言を浴びせる等の精神的DV
⑶性行為を強要するといった性的DV
⑷生活費を渡さず困窮させるといった経済的DV
という暴力の形態がありますが、いずれもその内容や暴力の程度によっては離婚原因となります。
(1)DVする人の特徴について
DVとはどのような人が行うのでしょうか。結婚当初から短気な人で暴力的な人もいれば、結婚当初は温厚であったにもかかわらず、結婚生活を送る中でDVを行う人等、多種多様です。
実際に、社会的地位もあり対外的には信用されている人であっても、家庭内では配偶者を支配し、暴力や暴言を浴びせる等、「まさかあの人がDVをするの?」と二面性をもった人もいます。
どのような人がDVを行うのかは一般化できませんが、DV加害者の傾向として、
⑴加害者としての自覚がない
⑵配偶者より自分が優位という意識が強い
⑶外面がいい・プライドが高い
⑷支配欲・独占欲が強い
ことが挙げられます。
(2)離婚できるDV行為とは
DVを理由に離婚することは可能です。
一般的に離婚は、夫婦間で協議、又は離婚調停手続きを利用して協議することとなります。
そこで合意ができない場合は、離婚訴訟を行うこととなりますが、訴訟では「法定離婚事由」の有無が問題となり、離婚を求める側が、法定離婚事由(その他婚姻を継続し難い重大な事由)の存在、すなわちDVの事実を証明する必要があります。
法定離婚事由に該当するDVの例としては
⑴身体的暴力:殴る蹴る等身体に傷害を負わせる行為、物を投げつける行為
⑵心理的・精神的暴力:悪口・暴言・人格を否定する発言等
⑶社会的隔離:携帯電話やパソコン等、外部との連絡手段を取り上げる。外出を極端に制限する等、社会的接触を著しく困難とすること
⑷脅迫・強要等:言動で畏怖させ、子どもや第三者への攻撃を行う、違法行為を強要する等
⑸性的暴力:性行為の強要等
⑹経済的暴力:生活費を与えない、
といったものが挙げられます。
2 DVで離婚を進める際の注意点
DVを理由として離婚を求める場合、まずはご自身及びご家族の安全を確保することが先決です。
そのため、どのような行動を行えばよいのでしょうか。
(1)別居について
DVは外部から確認しづらい家庭内で行われることが多いです。
そのため、DVが原因で離婚を求める場合は、ご自身(お子様やその他ご家族)の安全を確保することが必要です。
DV被害者の避難先であるシェルターを利用することも可能です。
相談先も多数あります。DV加害者は離婚に応じないケースも多々あることから、まずは被害相談を行い、避難先の確保を行ってください。
相談先としては、弁護士の他、配偶者暴力相談支援センター、最寄りの警察、があります。
避難しない場合であっても、DV防止法に基づき、加害者が近づいてくることを阻止したり、自宅から出ていくといった保護命令を裁判所に求めることも可能です。
DV被害を理由とする離婚を求める際には、必ず第三者にご相談下さい。
(2)裁判離婚が認められそうか
離婚には、協議離婚・調停離婚・裁判離婚がありますが、DV加害者は離婚協議に応じないことが多々あります。
そのため裁判離婚となる可能性も見据えて、予め客観的証拠集めを行うことをお勧めいたします。
具体的な証拠としては次のようなものが考えられます。
⑴DVによる怪我の写真や診断書
⑵DV被害を記した日記、LINE等
⑶DVの様子を録音した音源
⑷警察や各種機関への相談記録
⑸友人や家族にDV被害を相談した際のメモ・LINE等
離婚協議が整わず、離婚裁判となった場合は、受けていた各DVが法定離婚事由その他婚姻を継続し難い重大な事由)に該当する事実を主張・立証していくこととなります。その際に、先ほどの各証拠が役立つこととなります。
(3)離婚後の生活を考える
DV被害者のうち、配偶者から支配され、貯蓄がなかったり、仕事をしておらず収入源がない場合もあります。
また現在の住居から避難をした後、どこで居住するか問題となります。
通常の離婚に比べて、離婚後の生活立て直しには時間・費用が掛かることから、離婚を決意すれば速やかに経済的自立を目指して就職活動を行う、親族に援助を申し込む等、離婚後の生活をみすえた動きをしましょう。
生活資金の確保のためには、生活保護制度や児童扶養手当等の各種手当てがあります。
市町村によって異なるものもあるため、最寄りの役所にご確認下さい。また、職業相談や就職のための訓練などは、ハローワークに相談することも考えてみてください。
(4)子供がいる場合の注意点
DV被害は子どもに及ぶことも多々あります。
加害者が子どもを人質として、離婚を拒否することもあります。
場合によっては子どもを連れ去られる可能性もあります。
加害者に離婚を求める前に、弁護士や各関係機関へ相談し、場合によっては子どもの学校の先生にも、先に相談しておいた方が良いでしょう。
(5)DV離婚は一人で戦わない
DVは一人で抱える問題ではありません。
離婚を決意していない段階であっても、DV 被害の問題解決のため、弁護士等にご相談下さい。
また、ご自身や家族の身に危険を感じるレベルであれば、一刻も早く警察にご相談下さい。
3 DV離婚で請求できる慰謝料
DV離婚の場合、慰謝料はもらえるのでしょうか。
慰謝料は、精神的苦痛を被った場合 に請求可能となります。
この点、DVはまさに加害者による行為で被害者に精神的苦痛が生じた場合であることから、相手方に慰謝料を請求することができます。
(1)DV離婚の慰謝料の相場
慰謝料額はどの程度でしょうか?
慰謝料額については、概ね、DVで被った怪我や精神的苦痛の程度、DVの期間、婚姻契約の期間等が影響し、ケースバイケースとなります。
一般的に離婚に際して認められる慰謝料としては、数十万~500万円の範囲内に収まることが大半です。
(2)DVの慰謝料が増額・高額となる要素
DVの内容によっては慰謝料額が500万円を超えるケースもあります。具体的には
①DVの頻度が高い
②DVの期間が長い
③暴力の内容が激しい
④暴力の原因が身勝手
⑤大けがをした、後遺障害が残った
といったケースでは、慰謝料額が高額となる場合もあります。
(3)DV離婚の慰謝料請求までの流れ
DV離婚での慰謝料請求を行うには、次の手順がおすすめです。
① 交渉
一般的な離婚事案では、まずは双方による協議からスタートします。
しかしながらDV加害者がすんなり応じることは少なく、離婚を求めるとさらに暴力をふるう可能性もあります。
ご自身の身に危険が及びそうであれば、交渉は行わず、調停を行いましょう。
② 別居
DVを理由とする離婚について、安全性を確保するためできるだけ早くに別居することをお勧めします。
相手方と生活を一にすることで相手方からの洗脳・呪縛から解けない可能性もあります。
③ 調停離婚
話し合いができなければ、離婚調停を家庭裁判所に申し立てることとなります。
調停では、相手方からDV被害を受けていることを事前に説明し、住所を秘匿してもらう、相手方と裁判所内で直接会わないように部屋を別にしてもらう等、一定の配慮を行っても得ることがあります。
④ 離婚訴訟
交渉でも調停でも離婚が成立しなかった場合は、離婚訴訟を提起することとなります。
訴訟では、離婚を求める側がDVに関する事実を主張立証する必要があります。
⑤ 慰謝料請求
DVに関する慰謝料請求ですが、離婚協議の中で解決することも可能です。
また先に離婚問題を解決したうえで、改めて慰謝料請求を行うことも可能です。
但し、離婚後の慰謝料請求は「離婚後3年以内」に提起しなければならないので、なるべく急いで対応しましょう。
4 まとめ
DV被害にあっている方は、各相談機関にすぐに相談されたうえで、身の安全を確保することが先決です。
また、相手方が離婚を拒否し、離婚訴訟に踏み切らなければならない可能性もあります。
DVの証拠も必要になりますので、身の安全を図りながらも、可能な限り証拠を収集するようにしましょう。
DV被害にあわれている方は、我慢する必要はありません。身の安全を確保できる法制度もあります。
平穏な日常を取り戻すためにも、まずは弁護士にご相談下さい。
執筆者:弁護士 稲生 貴子