単身赴任と離婚

2023/8/29

単身赴任中に配偶者から離婚を求められた、単身赴任中だけど離婚できるの?とお悩みの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
単身赴任中の配偶者と離婚する場合、単身赴任中に離婚したい場合、どのような点に気を付けたらいいのか解説いたします。

1単身赴任は別居となる?

離婚は双方の合意により行うことができますが、一方当事者が離婚に応じなかったり、離婚条件に争いがあると協議により離婚できない場合があります。
そのような場合には離婚調停や離婚訴訟を申し立てることとなります。

離婚訴訟では、法律上の離婚原因の有無で離婚するか否か判断され、法定離婚事由として

 

① 配偶者に不貞な行為があったとき。

② 配偶者から悪意で遺棄されたとき。

③ 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。

④ 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。

⑤ その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。

 

と定められています(民法770条1項)。
離婚原因として圧倒的に多い性格の不一致等では、「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」に該当するかが問題となり、主観的にも客観的にも夫婦関係の修復が困難な程度であると認められる必要があります。
「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」の判断要素として「3年以上の別居」が挙げられますが、単身赴任中の別居の場合もかかる「別居」と認められるのでしょうか。
この点、単身赴任中の別居は、法定離婚事由を基礎づける「別居」には当たりません。
しかしながら、別居以外の事実関係(単身赴任者が全く自宅に戻らず、家族との交流もほとんど確認できない状態や、生活費を一切入れない状態等)をもって、夫婦関係が破綻しているとして離婚事由が認められるケースもあります。
このことから、単身赴任中の場合は、単に別居をしていることをもって法定離婚事由が認められるわけではないのでご注意下さい。

2離婚は会社の責任?慰謝料請求できる?

そもそも単身赴任を命じた会社が悪いとして、会社に慰謝料請求を考える方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この点、会社の業務上の命令と離婚との因果関係を証明する必要があります。
通常の業務命令によるものであれば、この因果関係の立証は極めて困難と思われます。

3海外赴任中に離婚するには

相手方が海外赴任中の場合、協議離婚については相手方住居に離婚届けを送付し、署名押印したものを日本に返送、そのまま役所に提出すれば離婚は成立します。
一方で離婚調停を申し立てる場合は、相手方にも調停出席の意思がなければ調停不成立となります。
代理人による出席も可能ですので、相手方が海外赴任中の場合は、代理人弁護士に依頼してもらい、調停で協議していくのがいいでしょう。

4なぜ離婚に繋がりやすいのか

単身赴任中は、どうしてもバラバラで生活をしているため、コミュニケーションが不足し、不満が蓄積することが多くあります。
また配偶者が近くにいないタイミングで不貞に及ぶ人も少なくはありません。
そのため単身赴任中に離婚率が上昇する、と言われています。
しかしながら、近年では携帯電話のアプリ等、連絡手段も多様化しており、それらを利用することで円滑なコミュニケーションを取ることは可能です。
単身赴任中だからと殊更に不安にならず、夫婦関係の修復を図る場合は、改めてコミュニケーションを取るように心がけてみてはいかがでしょうか。

5単身赴任であることを理由に離婚できる?

では、単身赴任であることを理由に離婚をすることは可能でしょうか?

(1)協議離婚ならできる!

双方が離婚に合意すれば、理由は何であろうと問題ありません。
その意味で相手方が合意さえすれば、単身赴任を理由に離婚することも認められるといえます。

(2)単身赴任は離婚事由にはならない

一方で相手方が離婚を争った場合、単身赴任そのものは法定離婚事由に該当しないことから、他に法定離婚事由が必要となります。

6こんな時なら離婚できる!

(1)配偶者が浮気(不倫)していた

単身赴任中に多い離婚事由として、配偶者の不貞が挙げられます。
配偶者の監視の目が行き届きにくいことからも、羽を伸ばして不貞行為に及ぶ人が多いものと考えられます。
単身赴任中であっても当然不貞行為が正当化されるものではありません。
相手方が不貞行為に及んだ場合は、離婚を求めることは勿論のこと、慰謝料の請求も可能なのでお忘れなく。

(2)生活費や養育費を払ってくれない

生活費等を支払ってくれない、ということは扶養義務を放棄している、すなわち悪意の遺棄に該当する可能性があります。
このような場合は悪意の遺棄を離婚事由として離婚を求めたうえで、経済的ハラスメントを理由とする慰謝料請求も行いましょう。

(3)長期の別居として「夫婦関係破綻」と認められたとき

単身赴任から長期の別居に至るケースもあります。
トータル10年以上別居をしていた場合であっても、全く自宅に帰らなかったケースで夫婦関係破綻が認められたものもあれば、別居先で愛人がいたにもかかわらず平行して自宅にも定期的に戻っていたケースでは、長期間の別居により夫婦関係はいまだ破綻していない、と判断されたケースもあります(不貞そのもので夫婦関係が破綻していると判断されることもありますが)。
このように単身赴任からの長期別居が離婚事由に当たるかは、個別具体的に判断されるため、お悩みの方は一度弁護士にご相談下さい。

7単身赴任中の離婚意思の明示

単身赴任中に離婚協議を進めるには、どのような点に注意したらよいのでしょうか。

(1)離婚前提の別居であることを立証

まずは、離婚を前提とした別居であることを相手方に明確にしましょう。
当事者同士、LINE等で伝える方法もありますが、内容証明郵便で意思をはっきり伝えることがもっとも効果的でしょう。

(2)単身赴任の必要性がないことを立証

会社からの業務命令でないにもかかわらず、ただ単身赴任(実質別居)、といったケースもあります。
そのような場合は、単身赴任の必要性がなく、相手方が正当な理由なく別居を行っていると内容証明郵便で指摘しておきましょう。

8単身赴任中の離婚での注意点

単身赴任中の離婚協議には、次のようなデメリットが挙げられます。

(1)離婚協議の進行が遅い

相手方が遠方の場合、協議自体なかなか前に進まないことが考えられます。
また合意後に公正証書を作成しようとしても、二人で一緒に公証役場に行く必要があります。
そのため単身赴任により遠方で居住しているケースでは手続きが一向に進まず、時間がかかる傾向にあります。
できるだけ協議や手続きを前に進めるためにも、単身赴任中の離婚の場合は、弁護士にご相談されることをお勧めいたします。

(2)裁判所が遠方になる可能性がある

離婚調停は相手方の居所を管轄する家庭裁判所となります。
そのため、離婚調停が遠方となり、出廷に交通費や弁護士の日当等費用が掛かることとなります。
最近では家庭裁判所の家事事件についてもウェブ期日が導入され、必ずしも出廷を要さないケースがありますが、出廷が求められるケースもあるため、費用を考える必要もあります。

(3)財産を隠されたり、浮気の証拠が取れない

遠方に住んでいる場合は、相手方が財産に関する資料を秘匿したり、また不貞現場をなかなか抑えることができず、離婚協議の際に使用する客観的証拠がなかなか取得できない場合もあります。
ご自身で客観的証拠が取得できない場合は、探偵を依頼し、不貞現場の証拠を獲得するという方法も考えられます。

(4)単身赴任と別居の区別が出来ない

前述の通り、単身赴任か別居かの区別は、客観的に困難です。
そのため離婚を検討された段階で相手方に単身赴任中ではあるが、離婚を前提とした別居である旨、意思を明確に示しておいた方がよいでしょう。

(5)財産分与の基準時がいつになるか揉める

単身赴任と別居の区別がつきにくいことは、財産分与の基準時(通常は別居時)がつきにくい、ということになります。
どの時点を財産分与の基準時とすべきか争いになることも多いです。
財産分与の各資料の取得方法とも併せて、弁護士にご相談いただき、戦略的に取り組んでいただければと思います。

9まとめ

単身赴任中に離婚を行う場合、気をつけるべきポイントが数多くあることから、なるべく早めに弁護士にご相談下さい。