交通事故により負ったケガの治療費は、全額出るの?
2019/7/13
こんにちは。
今回は、交通事故により負った怪我の治療費についてのお話です。
交通事故で怪我を負ったとき、整形外科に通院したり、接骨院や整体に通われたり、様々な治療をされるかと思います。
事故により負った怪我を治すため、痛みを軽減するために治療したのだから、治療のための費用は加害者に全額負担してほしい、と思われる方も多いのではないでしょうか。
しかし、法的には、たとえ治療のために支出した費用であっても、加害者に賠償義務が認められない場合もあります。
では、怪我の治療のために支出した費用のうち、加害者に賠償責任のある損害として認定されるのは、どのようなものなのでしょうか。
1 治療費の算定
治療費は、問題となる交通事故から発生した傷害の治療に必要かつ相当な範囲であれば、その実費全額が損害として認められます。
そして、必要性・相当性の認められる治療行為とは、一般に、医学的見地から、その傷病の治癒として必要かつ相当と認められ、また、報酬額も社会一般の水準に照らして妥当なものをいうとされています。
2 治療費・治療関係費の必要性・相当性が問題となる場合
以下のような場合には、損害と認められない可能性が高いため、注意が必要です。
(1)過剰診療
過剰診療とは、不必要に長期間の入通院等、事故から発生した傷害に対する治療行為として医学的必要性ないしは合理性がないものをいいます。
過剰診療か否かについては、頸椎捻挫や腰椎捻挫といった、比較的他覚所見に乏しい傷病に対する治療行為の必要性に関して問題となることが多いです。
(2)高額診療
交通事故による治療行為は、自由診療(健康保険を使わずに受ける治療)で行われる場合が少なくなく、同一の治療内容であっても、健康保険を利用した場合の治療費の数倍という場合もあります。
これは、診療単価が健康保険を利用した場合、1点10円とされているのに対し、自由診療においてはその制限がないことにより生じるものです。
そして、自由診療報酬の1点単価の相当性が争われることがあります。
裁判例では、ほぼ健康保険の基準により治療費を算定したものもありますが、おおむね、健康保険基準の1.5倍から2倍程度については認める事例が多いようです。
(3)東洋医学等
接骨院・整骨院での柔道整復師の施術費用や、鍼灸、マッサージ、カイロプラクティック、整体等の施術費用についても、事故と相当因果関係のある損害といえるかが問題となります。
裁判例には、上記のような施術を行うことについて、医師の具体的な指示があることなど、医師による治療の一環として行われた場合でない限り、当然には、施術費用を損害と認めることはできない、と判断したものがあります。
これによると、医師の指示のもとに行われたものであれば、医師による治療の一環と評価されますが、医師の指示のない場合には、施術の必要性、合理性、相当性、有効性についての検討が必要となり、これらを被害者側が積極的に主張立証していく必要があります。
そのため、接骨院などへの通院の前に、まずは医師に相談することをおすすめします。
(4)症状固定後の治療費・将来の治療費
症状固定とは、これ以上治療しても症状が改善しない状況をいいますので、症状固定後の治療行為は必要がないということになり、原則として賠償が認められる治療費は、症状固定時までの必要かつ相当な治療行為の費用です。
もっとも、後遺症の内容、程度、治療の内容等によっては、症状固定後の治療費、将来治療費の賠償が肯定されることもあります。
たとえば、いわゆる植物状態(遷延性意識障害)になったとき等で生命を維持するうえで将来治療費を支払う必要性・蓋然性が認められる場合や、症状固定後も強い身体的苦痛が残り、苦痛を軽減するために治療の必要性が認められる場合には、治療行為の必要性・相当性が認められるとされています。
3 おわりに
このように、交通事故で負った怪我の治療のための費用だとしても、加害者に賠償請求できるものとそうでないものがあります。
交通事故に遭われた方で、支出した費用のうち、どのようなものを加害者に請求できるのかなど、疑問に思われたときは、是非弊所にご相談ください。
交通事故被害に関する相談の場合、弊所では、初回相談料は無料となっております。
執筆者:弁護士 森本 禎
▽そのほか、交通事故に関する記事をお読みになりたい方はこちらから。
交通事故関連記事