残業代を請求された!適切な対処方法を解説

2023/10/4

会社経営に関するトラブルでよくご相談を受けるのは、従業員や退職した従業員から未払残業代の請求を受けたというものです。
今回は、従業員や退職した従業員から未払残業代の請求を受けた場合の対処方法について解説します。

1未払残業代とは?

未払残業代とは、会社が労働者に対して支払義務を負っているにも関わらず、支払がなされていない残業代のことをいいます。
未払残業代請求を無視すると、労働者から未払残業代請求訴訟を起こされたり、労働基準監督署から指導を受けたりするリスクがあるので、早急に対応をする必要があります。

(1)残業代トラブルの多い職種

残業代トラブルが多い職種は、飲食業、不動産業、建設業、運送業、製造業などが挙げられます。
いずれも、会社側の労働時間の管理が不十分であったり、人手不足が理由で労働時間が不明確であったり、長時間労働になりやすい業種となります。

(2)労働時間が長時間化している

人手不足などで労働時間が長時間化している会社は、未払残業代が発生している可能性があります。
労働基準法上、以下の場合は割増賃金を支払うことになる(労働基準法37条)ため要注意です。

 ①時間外割増賃金

時間外割増賃金は、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超える残業の場合は、通常の賃金の25%増しとなり、1か月に60時間を超える残業の場合は通常の賃金の50%増しとなります。
なお、従前は1か月に60時間を超える残業の場合の割増率は大企業のみが50%であり、中小企業は25%でしたが、令和5年4月1日からは大企業だけでなく、中小企業も50%に引き上げられました。

 ②休日労働割増賃金

休日労働割増賃金は、労働者の法定休日に労働させた場合の賃金であり、通常の賃金の35%増しとなります。

 ③深夜労働割増賃金

深夜労働割増賃金は、午後10時から午前5時までの間に労働させた場合の賃金であり、通常の賃金の25%となります。
注意が必要なのは、深夜労働に当たる労働を、時間外労働や休日労働と共に行った場合です。
この場合は、時間外労働や休日労働による割増賃金に加えて、深夜労働割増賃金の支払いも必要となります。

2未払残業代を請求された場合

従業員や退職した従業員から未払残業代を請求された場合、その内容が正当なものであれば支払う必要があります。
もっとも、請求に法的根拠がない場合や、計算が誤っているなどの場合は、反論をすることによって支払う必要が無いようになったり、支払額を減額できる可能性があります。
会社側の反論として考えられるものは以下の通りです。

(1)そもそも残業禁止だ

従業員が残業をしていたとしても、会社として従業員が残業をすることを禁止しており、残業が会社の指示ではない場合は請求を否定できる可能性があります。
ただし、単に形式的に残業を禁止しているだけで、従業員が残業をすることを会社が事実上黙認していたり、残業をせざるを得ない状況を会社が作出していた場合などは、実質的に残業を禁止していたとは言えません。
会社が残業禁止をしていたといえるためには、会社が残業の禁止をしっかり従業員に周知徹底し、終業時間後も業務が残っていても管理監督者に引き継ぐことを命じていたなどの事情が必要になります。

(2)主張している労働時間に間違いがある

従業員や退職した従業員が主張する労働時間が過大であったり、実際は労働をしていなかったといえる場合は、その分の時間は残業代請求の前提となる労働時間には当たらない可能性があります。
例えば、タイムカード上ではその記載されている時間勤務していたことになっているものの、実際は休憩していたり会社の業務とは無関係のことをしているなど、会社の業務を行っていない場合は、残業をしているとはいえません。

(3)基礎となる賃金の計算に間違いがある

残業代計算の基礎となる賃金が誤って高く計算されてたうえで請求を受けることがあります。
例えば、住宅手当や通勤手当などは、残業代計算の基礎となる賃金から除外できますが、これらを含めて賃金を計算している場合があります。
また、歩合給の従業員の場合は、基礎時給は既に歩合給の中に含まれているため、上乗せする金額に基礎時給を含めないように注意する必要があります。

(4)固定残業代を支給していた

固定残業代を支給している場合も、既に残業代が既払いであるとして従業員の請求に対して反論することができる場合がります。
固定残業代とは、みなし残業代などとも呼ばれ、基本給とは別に、一定額の残業代を支給する賃金のことをいいます。
もっとも、ただ単に基本給に上乗せをして支払っているだけで固定残業代と認められるわけではありません。
実際に就業規則や給与明細などで、基本給としての支払いなのか、固定残業代としての支払いなのかが明らかになっていなければなりません。
また、固定残業代を支払っていればそれ以外の残業代を支払わなくてよいというものではありません。
実際の残業代が固定残業代を上回っている場合は、その差額を支払わなければなりません。
このように、会社が従業員に固定残業代を支払っているという反論により従業員の請求を否定または減額できる可能性がありますが、固定残業代が認められるためには条件があるので注意が必要です。
なお、労働基準法上、原則として1日8時間、週40時間を超えて労働をさせることはできず、それを超えて労働させるためには36協定という会社と労働者との協定が必要です。
36協定を締結していても、月45時間、年360時間を上回る残業をさせることは違法となる点にも注意が必要です。

(5)残業代が発生する立場ではない

従業員や退職した従業員から残業代を請求されたとしても、当該従業員が管理監督者であれば、そもそも残業代が発生しないという反論が可能です。

 ①管理監督者とは

管理監督者(労働基準法41条2号)とは、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的立場にある者のことをいいます。
管理監督者は、形式的な役職の名称で判断されるのではなく、業務の実態に即して判断します。

 ②管理監督者にあたる基準

管理監督者に当たる基準は以下のとおりとされています。

1.事業主の経営に関する決定に参画し、労務管理に関する指揮監督権限を認められていること

 2.自己の出退勤をはじめとする労働時間について裁量権を有していること

 3.一般の従業員に比してその地位と権限にふさわしい賃金上の処遇を与えられていること

 ③管理職には時間外割増賃金、休日割増賃金は発生しない

上記の基準を満たす者は管理監督者となり、管理監督者は労働基準法32条で定められた、1日8時間、週40時間という労働時間の上限の規定は適用されず、時間外労働や休日労働をしても割増賃金は請求できません。

(6)消滅時効が完成している

従業員や退職した従業員からの残業代請求が妥当なものであったとしても、残業代は、給与支払日の翌日から3年(令和2年3月以前の残業代は2年)経過すると消滅時効にかかります。
したがって、3年(2年)前の請求については支払う必要はありません。
なお、消滅時効は期間が経過すると当然に支払義務がなくなるのではなく、消滅時効を援用しなければ効果が発生しないので、消滅時効が完成し得る請求が来ても放置しないように注意してください。

3労働基準監督署からの指導・監督が入った場合

未払いの残業代があったり、違法な残業をさせている場合は労働基準監督署からの指導・監督が入る場合があります。
会社に違法行為がある場合、従業員や元従業員から労働基準監督署に通報があり、それがきっかけで調査が入ることがよくあります。
労働基準監督署から呼出がある場合、呼出は任意なので、拒否しても違法ではありません。
しかし、呼出を理由なく拒否することは労働基準監督署の心証は悪くなり、次のステップである強制的な立ち入り検査や刑事処罰などの手続に進む可能性があります。
したがって、労働基準監督署に対しては誠実な対応をするようにしましょう。

4まとめ

以上のように、労働者からの残業代請求は、場合によっては高額な請求になる可能性がありますが、反論する事情も多くあります。
残業代に関する規制は細かいので、適切な残業代の計算をするのは専門的な知識を要します。
したがって、残業代を請求された場合は、専門家である弁護士に相談されることをおすすめします。