交通事故~慰謝料~
2023/8/16
交通事故の被害に遭ったら慰謝料を請求できる、交通事故を起こしてしまったら被害者に慰謝料を支払わなければならない、ということは皆さん一度は耳にしたことがあると思います。
今回は、そもそも、交通事故の慰謝料とはどういうもので、どういう場合にいくら請求できる(支払わなければならない)か、十分な慰謝料請求をするための注意点などについて解説します。
1 交通事故の慰謝料とは
まず、交通事故の慰謝料とはどのようなもので、どういう場合にいくら請求できるかについて解説します。
(1)慰謝料とは精神的苦痛に対する賠償金
慰謝料とは、精神的苦痛に対して支払う賠償金のことをいいます。
交通事故により怪我をして入通院を余儀なくされたり、後遺障害を負うことになったり、亡くなってしまった場合に発生します。
(2)物損と人損の違い
慰謝料が認められるのは人損の場合で、物損については基本的には認められません。
人損とは、治療費や慰謝料など、人が怪我や亡くなったことに関しての損害です。
物損とは、車の修理費や代車費用など、物に関しての損害です。
(3)損害の計算方法は費目積立方式
損害とは、交通事故が無かった時の状態と、交通事故によって被害者が置かれた不利益な状態との差のことをいいます。
被害者が置かれた不利益な状態は、例えば、怪我の治療を余儀なくされた場合は治療費や慰謝料、通院に交通費を負担した場合は交通費など、個別の事情を金銭に換算し、それを積算していくことによって損害額を算出していくことになります。
(4)慰謝料は損害費目の一つ
交通事故の損害=慰謝料ではありません。
前述のように、慰謝料とは、怪我をしたり後遺障害を負ったりするなど、交通事故で精神的苦痛を受けたことに対して支払う賠償金のことをいいます。
したがって、慰謝料とは、治療費や車の修理費などの損害費目と同じく、交通事故の損害費目の一つになります。
(5)慰謝料の算定の仕方①~入通院慰謝料~
入通院慰謝料とは、怪我により入院や通院を余儀なくされたことに対する慰謝料になります。
入通院慰謝料は、怪我の程度、通院日数、通院期間の長さを基準として金額を算定します。
(6)慰謝料の算定の仕方②~後遺障害慰謝料~
後遺障害慰謝料とは、治療をしても怪我が治癒せず、障害が残ってしまったことに対する慰謝料になります。
後遺障害は、損害保険料算出機構という機関で残った障害の程度に応じた等級認定を受けるか、裁判所の判断によって認定します。
後遺障害慰謝料は認定された後遺障害等級に応じて金額を算出します。
(7)慰謝料の算定の仕方③~死亡慰謝料~
死亡慰謝料は、交通事故により死亡したことに対する慰謝料になります。
死亡慰謝料は、本人が受けた精神的苦痛に対するものの他、亡くなられた方の親族が受ける精神的苦痛に対する慰謝料が認められる場合があります。
2 慰謝料の3つの基準
慰謝料の算出には、①自賠責基準、②任意保険基準、③弁護士基準の3つの基準があり、各基準によって具体的な金額が異なってきます。
以下具体的に説明します。
(1)自賠責基準
自賠責基準とは、自賠責保険に対する請求について、保険金を算出する際の基準になります。
自賠責保険は、被害者に対する最低限の補償をする保険であり、支払額の上限も、120万円(被害者に後遺障害が発生しない場合)と決まっています。
自賠責基準は、3つの基準のうち、最も低額な基準になり、賠償額としては十分ではありません。
(2)任意保険基準
任意保険基準とは、任意保険会社が算出する際の保険会社独自の基準です。
保険会社独自の基準なので、保険会社ごとに異なります。
一般には、自賠責基準よりも高い金額の提示があることが多いですが、後述の弁護士基準に比べる低い金額にとどまります。
(3)弁護士基準
弁護士基準は、裁判で損害賠償請求をした場合に裁判所が認定する慰謝料の基準に基づいて算出され、裁判基準とも呼ばれます。
弁護士基準は、自賠責基準や任意保険基準よりも高額になる可能性が高い算出方法で、弁護士に示談交渉を依頼すると、弁護士基準に基づいて相手方と示談交渉をしてくれます。
3 入通院慰謝料算定上の注意点
通院慰謝料を算定するにあたっては、いくつかの注意点があります。
この注意点を意識することで、適正な慰謝料を獲得できる可能性が高まります。
(1)治療に行けば行くほどいい?
治療に行けば行くほど慰謝料の金額が上がるというわけではありません。
例えば、弁護士基準では、慰謝料額は通院期間の長さを基準とすることが多く、通院の回数で算定するわけではありません。
むしろ、不必要に毎日通院すると、医療費が高額になり、相手方保険会社から早期に医療費の支払を止められたり、相手方と無用なトラブルに発展するリスクが高まるので注意が必要です。
(2)保険会社から治療費を打ち切ると言われたら?
通院期間が経過すると、保険会社から治療費の支払対応の打ち切りを言われることがあります。
その時点で完治していれば問題ありませんが、まだ症状が残っており、治療が必要ということであれば、主治医に相談して今後の治療計画や治療期間について保険会社に説明し、打ち切り日を延長してもらうように交渉した方が良いでしょう。
慰謝料は通院期間に応じて算定することになるので、通院を早期に終了してしまうと、症状が継続しているにもかかわらず適正な慰謝料も獲得できないということになりかねません。
交渉をしても打ち切り日の延長が認められなければ、健康保険を利用して通院を継続することも検討が必要です。
この点についての交渉を弁護士に依頼することも可能ですので、一度弁護士にご相談ください。
(3)整骨院に通っても慰謝料はもらえる?
整骨院は、病院での医師による治療とは異なります。
けがの治療はあくまで病院での治療が基本となり、整骨院での施術は、病院での治療を補助するものという位置づけです。
したがって、そもそも主治医の指示が無い場合は整骨院の費用が損害として認められないことがあります。
医師の指示がある場合でも、整骨院ばかり通院しても治療とは認められず、その期間の慰謝料は認められない可能性がありますので、必ず定期的に病院にも通院するようにしましょう。
(4)保険会社から「健康保険を使って」と言われたら?
事故から一定の期間が経過した場合は、保険会社から治療費の支払いを打ち切ることがあります。
その際、保険会社から、今後通院する場合は健康保険を利用してくださいと言われる場合があります。
まだ治療の必要がある場合は、通院を継続した方が良いでしょう。
ただし、保険会社としては、これ以上の通院の必要はないと考えているため、治療費の支払いや慰謝料の支払いを拒否されるリスクがある点は注意が必要です。
4 まとめ
今回は交通事故の慰謝料について解説いたしました。
慰謝料の算定は様々な基準があり、通院の仕方を誤ると適切な慰謝料を獲得できない可能性があります。
そこで、交通事故に遭ったら、早めに弁護士にご相談いただき、通院方法や頻度、打ち切りの対応などについてアドバイスをもらうことをお勧めします。
執筆者:弁護士 森本 禎
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