配偶者暴力(DV)防止法が改正されました
2023/8/4
配偶者暴力(DV)防止法が改正されました。
主な改正ポイントや改正に至る背景について説明いたします。
1 改正法の主なポイント
保護命令制度の拡充・違反の厳罰化
配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(いわゆるDV防止法)の一部を改正する法律が、令和5年5月12日に成立し、同年5月19日に公布されました。
改正点はいくつかありますが、主なものとして以下のものがあげられます。
(1)接近禁止命令等の申立てをすることができる被害者の範囲の拡大
現行法の保護命令では、申立てができる被害者は「身体的暴力」を受けた者又は「生命身体に対する脅迫を受けた」者に限れていましたが、改正法ではこれに加えて「自由、名誉又は財産に対する加害の告知による脅迫を受けた者」が追加されました。
(2)接近禁止命令の発令要件の拡大
接触禁止命令等の期間が6か月であったところ、改正法では1年となる等、保護命令制度の拡充・厳罰化が図られました。
この改正DV保護法は一部の規定を除いて、令和6年4月1日から適用(施行)されます。
2 改正に至った背景(これまでの問題点)
改正前DV防止法では保護命令の対象となる「暴力」を「身体的暴力」を前提として、「脅迫」についても生命又は身体に対し害を加える旨を告知するものと定義していました。
しかし、DV家庭では、身体的暴力や生命・身体に対する脅迫によらない方法での「支配」がなされることもあります。
また、人を不当に貶める、逃げられない、被害を被害と思えなくするなど、被害者の自由な心理や行動をコントロールし続け、その結果として配偶者の一方がその心身に不調を来たすケースは少なくありません。
また配偶者である立場をもって相手が同意しない性的行為に及ぶ、避妊に一切協力しないといった行為は、結果として望まない妊娠をもたらすものであり、身体的暴力と同等に扱うべき、という指摘がなされてきました。
このような問題点を解消すべく、今回DV防止法の改正が行われました。
3 改正の内容
では、改正点を順に見ていきましょう。
(1)申立人の要件の追加
改正前DV防止法では、接近禁止命令等の申立てをすることができる被害者を
①配偶者からの身体に対する暴力を受けた者
②「生命又は身体」に対する加害の告知による脅迫を受けた者
と定めていました。
殴る、蹴るといった身体的暴力を受けた人、又は「殺すぞ」「殴るぞ」といった発言のように生命・身体に対する脅迫を受けた人のみが保護の対象となっていました。
そのため「お前は価値のない人間」「使えないやつ」といった人格を否定する暴言等は保護命令の対象となりませんでした。
それに対し改正法では、
③「自由、名誉又は財産」に対する加害の告知による脅迫を受けた者
が追加されています。
この改正により、生命身体に対する脅迫でなくても、人格を繰り返し否定する言動や家庭にお金を入れないなどの経済的虐待による被害者にも申立の権利が与えられ、これまで保護の対象に含まれなかった被害者も、保護の対象に含まれることとなりました。
(2)接近禁止命令の発令要件の拡大
申立人の定義と同様に、接近禁止命令の発令要件についても、これまで「更なる身体に対する暴力により身体に重大な危害を受けるおそれが大きいとき」と定められていたところ、「更なる身体に対する暴力又は生命・身体・自由等に対する脅迫により心身に重大な危害を受けるおそれが大きいとき」に拡大されました。
申立人の要件の拡大と同様に、精神的・経済的虐待による被害者の保護を目的とした改正といえます。
(3)接近禁止命令等の期間の延長
接近禁止命令等の期間が6か月間から1年間に伸長されました。
一方で、子への接近禁止命令・子への電話等禁止命令について、当該命令の要件を欠くに至った場合の取消制度(接近禁止命令の発令後6か月以降等)を創設し、親と子双方の利益保護を図った改正が行われました。
(4)電話等禁止命令対象行為の追加
電話等禁止命令の対象行為に、緊急時以外の連続した文書の送付・SNS等の送信、緊急時以外の深夜早朝(午後10時~午前6時)のSNS等の送信、性的羞恥心を害する電磁的記録の送信、位置情報の無承諾取得が追加されました。
一人一台のスマートフォンが当たり前となり、音声通話よりもSNSによるメッセージが主流となった現代の通信状況に合わせた改正です。
また、位置情報の無断取得の禁止も、スマートフォンが身近になった現代ならではの改正内容と言えます。
(5)子への電話等禁止命令の創設
被害者と同居する未成年の子に対しても、当該子への電話等禁止命令が創設されました。
具体的には、被害者への接近禁止命令の要件のほか、以下2点です。
①被害者が当該子に関して配偶者と面会することを余儀なくされることを防止するため必要があること
②15歳以上の子についてはその同意があること
被害者である配偶者のみならず、同居する子も直接の保護対象としたことで、被害者側の保護の拡充を図っています。
なお、電話等禁止行為には、前述のSNS等の送信のほか、監視の告知、著しく粗野乱暴な言動、無言電話、汚物等の送付、名誉を害する告知、性的羞恥心を害する事項の告知等、いわゆる嫌がらせ行為が含まれます。
(6)退去等命令の期間に関する特例の新設
被害者のみが住居の所有者又は賃借人である場合、申立てにより、退去等命令の期間を6か月(原則は2か月)に延長する特例が新設されました。
この特例は被害者が唯一の住居の所有者または賃借人でなければなりませんので、自宅が夫婦の共有である場合には適用されない点に注意が必要です。
(7)保護命令違反に対する厳罰化
保護命令に違反した場合の罰則が、1年以下の懲役/100万円以下の罰金から2年以下の懲役/200万円以下の罰金へと厳罰化されました。
4 まとめ
DV(家庭内暴力)は決して身体的なものにとどまらず、被害者が「私が悪いのだから私が我慢しさえすればいい」と思い込まされ、理不尽な状況に耐え忍んでいるというケースも多くあります。
身体的虐待であれ、精神的虐待であれ、まずは逃げることが先決です。
どうやって逃げたらよいのか分からない、そんなときには、ぜひお近くの弁護士へご相談ください。
執筆者:弁護士 稲生 貴子
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