裁判離婚~法定離婚事由~
2023/7/4
離婚は夫婦間で合意すれば可能です。
しかし、一方が離婚を拒否したり、離婚条件が整わなかったり、協議すらできない状況の場合、離婚調停、離婚訴訟を行うこととなります。
離婚訴訟では、裁判官が双方の主張立証から「法律上の離婚原因」すなわち法定離婚事由の有無を判断します。
今回は、離婚訴訟の結果を左右する「法定離婚事由」について解説したいと思います。
1 裁判離婚に必要な法定事由
「法定離婚事由」は、民法770条第1項に
①配偶者に不貞な行為があったとき。
②配偶者から悪意で遺棄されたとき。
③配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
④配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
と定められています。
配偶者がこれらの法定離婚事由のうち、いずれかに該当する場合、その配偶者が離婚に合意していなくとも、訴訟で離婚が認められる流れとなります。
一方で、この法定離婚事由に該当する配偶者からの離婚請求は、原則認められないことが大半です。
では、具体的にどのような場合に、これらの法定離婚事由に該当するのでしょうか。
2 ①不貞行為
配偶者以外の異性と性行為に及んだ場合、「不貞行為」に原則該当します。
これまで同性との性行為は「不貞行為」に該当しないとする考えもありましたが、不貞相手に対する損害賠償請求を行った裁判において、同性同士の性行為であっても「婚姻生活の平和を害するような性的行為」についても「不貞行為」に該当すると指摘されていることから(令和3年2月16日東京地裁)、今後、異性に限らず、同性同士の性行為についても法定離婚事由の「不貞行為」に該当する可能性が考えられます。
3 ②悪意の遺棄
民法752条には「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」と扶助義務が定められ、相互扶助義務に正当な理由なく反している場合、悪意の遺棄にあたるケースがあります。
(1)「悪意の遺棄」にあたる場合
具体的には、
①勝手に家を出る
②生活費を支払わず、配偶者を困窮させる
③病気の配偶者に対して、医療費等を渡さない
④家を閉め出して、帰宅できなくさせる
等の場合、悪意の遺棄に該当する場合があります。
(2)「悪意の遺棄」にあたらない場合
病気や失業等で収入を得ることができず生活費を支払えない場合や、単身赴任等により別居する場合は、悪意の遺棄に当たりません。
4 ③配偶者の生死が3年以上不明
「生死が不明」とは、単に連絡が取れないものの、住民票等をたどれば居場所が判明するといった場合は該当しません。
連絡は取れず、生死も分からない、完全に行方不明であることが必要となります。
生死不明を理由に離婚が成立した場合、配偶者の財産を相続することはできません。
そのため配偶者に財産がある場合は、失踪宣告を検討してみてもよいかと思います。
なお失踪宣告には、生死不明状態が7年間経過することを要する「普通失踪」と、戦争や災害、船の沈没等の危難に遭ったことが明らかになったまま1年経過した場合に適用される「特別失踪」があります(民法30条以下)失踪宣告も検討してみ失踪宣告を行うことで失踪宣告とは、民法30条以下に規定されている制度で、行方不明の人を法律上死亡したことにするものです。
配偶者が行方不明の場合に婚姻関係を終了させたいとお考えの場合は、離婚訴訟、失踪宣告いずれの方法が最善か検討するためにも、一度弁護士にご相談されることをお勧めします。
5 ④回復見込みのない強度の精神病
言葉通り、うつ病等に罹患しただけでは、法定離婚事由には該当しません。
夫婦の相互扶助義務から、一方が病気になった時にも支えあう必要があります。
とはいえ、強度の精神病に罹患し、意思の疎通も難しく、回復の見込みがない場合には、夫婦関係を継続できないとして、訴訟で離婚が認められることもあります。
このケースでは離婚が認められるハードルはかなり高く、治療が長期間にわたり献身的に行われているか、一方配偶者の言動が病気を悪化させるものではないか、病気に罹患した者の離婚後の生活見通しが立っているか等、相互考慮されることとなります。
回復見込みのない強度の精神病を離婚事由とする場合、他の離婚事由に比べて様々な配慮が必要となります。
離婚に向けた準備をするためにも、配偶者のご病気を理由にご離婚をお悩みの方は、まずは専門家である弁護士にご相談下さい。
6 ⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき
①から④の法定離婚事由に該当しないものの、夫婦関係を継続させることが困難な事由がないか検討し、「婚姻を継続しがたい重大な事由」が認められる場合も、法定離婚事由に該当します。
夫婦関係が継続できない程度は、人によって様々ですが、離婚訴訟で認められる場合には、主観だけでなく客観的にも「婚姻を継続できないほどの重大な理由である」と認められる必要があります。
(1)性格の不一致
性格の不一致を理由に離婚を求められる方は圧倒的に多いです。
しかし、もともと生まれも育ちも異なる二人が生活を共にすることから、性格や価値観が一致しないことは当然といえます。
そのため性格が合わないことはあくまで一つの要素であり、そこから夫婦関係の修復が困難な程度であることを、客観的証拠と併せて主張立証する必要があります。
(2)DVやモラルハラスメント
誰が見ても分かるような暴力を伴うDVの場合、離婚訴訟で離婚が認められる可能性は高いです。
しかしながら夫婦間のDV、ハラスメントは家庭内という密室で行われることが大半です。
そのため、DVやハラスメントを理由に離婚を求める場合は、DV等の証拠集めが重要となります。
DV、ハラスメントは夫から行われるとは限らず、妻から夫に行われるケースもあります。
特に妻からのDV等は、男性が被害者になるの?等、社会でなかなか信じてもらえないこともあり、離婚を勝ち取るためには証拠集め等、戦略を立てることが重要となります。
また状況によっては、直ちに避難が必要となるケースもあることから、お悩みの方は専門家である弁護士になるべく早くご相談下さい。
(3)家事・育児に無関心
配偶者が家事・育児を一切行わずワンオペ育児を行っている方が多いと聞きます。
育児家事に非協力的、というだけでは夫婦関係が修復不能な程度とはいえず、法定離婚事由に該当することは難しいですが、正当な理由なく一切家事・育児を行わない場合や、子供を完全にネグレクトしているといった極端な場合には、婚姻生活の義務違反として、離婚原因となるケースがあります。
(4)両親・親族間とのトラブル
義理の両親や、親族同士が衝突し、離婚したいと考える方もいらっしゃいます。
この場合、あくまでも夫婦関係が破綻しているか否かが問題となるため、義理の両親や親族との争いを理由に、夫婦間の関係もぎくしゃくして、修復困難な程度となっている場合には、離婚事由に該当するケースもあります。
(5)ギャンブルなどの浪費
ギャンブル等の浪費により、生活がままならない状態となっている場合は、婚姻生活における義務に違反したとして、離婚事由に該当するケースがあります。
配偶者の浪費にお困りの方は、浪費解消に向けて夫婦間で協議をすることはもちろん、相手方に改善の余地がない場合は、離婚に向けて浪費に関する証拠集めをしておいたほうがよいでしょう。
(6)セックスレス等の性的問題
セックスの回数は人ぞれぞれであり、結婚後少なくなったということもよく耳にします。
人によって性的嗜好等が異なることから多少のすれ違いでは離婚事由には該当しません。
しかしセックスレスから夫婦間でぎくしゃくし、結果的に修復困難な程度まで夫婦関係がうまくいかなくなった場合等、複合的に見て離婚事由に該当するケースもあります。
(7)配偶者が服役中
配偶者が服役中の場合、殺人や強盗といった重大犯罪の場合は高い確率で法定離婚事由に該当すると判断されます。
しかし、軽微な犯罪で服役している場合は、必ずしも法定離婚事由に該当するとは限りません。もっとも、軽微な犯罪であっても繰り返し服役しているといった場合には、法定離婚事由に当たるケースもあります。
7 まとめ
「法定離婚事由」の多くは、一つの事実のみで認められるものではなく、多くの事実関係を総合考慮して判断する場合がほとんどです。
ご自身で法定離婚事由に該当しないとお考えの事実関係についても、他の事実と併せて考えることで法定離婚事由に該当することもあります。
また離婚原因によっては慰謝料を請求できるケースもあります。
ご自身のケースでは離婚できるかお悩みの方、離婚を勝ち取るまでどのような準備を行ったらよいかお悩みの方も、まずは弁護士までご相談下さい。
執筆者:弁護士 稲生 貴子