もらった遺産も夫婦のもの?財産分与の対象財産とは

2023/5/9

 

財産を分け合う制度として、「遺産分割」や「財産分与」という名前を一度は聞かれたことがあるかと思います。
「遺産分割」と「財産分与」、財産を分け合うという意味では共通していますが、使用する場面や法的な内容も大きく異なります。

では「遺産分割」と「財産分与」はどのように違うのでしょうか。

1 財産分与と遺産分割

「財産分与」:離婚の際に行うもの。婚姻中に夫婦で築き上げた財産を分け合うこと。

「遺産分割」:相続の際に行うもの。被相続人(亡くなった人)の残した遺産を、相続人同士で分け合うこと。

財産分与は離婚の場面で、遺産分割は相続の場面で行うものです。
財産を分け合うものという意味では「財産分与」「遺産分割」ともに共通していますが、使われる場面が大きく異なります。

(1)財産分与とは

(夫婦間における財産の帰属)
第七百六十二条
夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)とする。
2 夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定する。

財産分与とは、婚姻期間中に夫婦で協力して形成した財産について、離婚の際に夫婦で分け合う制度をいいます。
では、どのような財産が財産分与の対象となるのでしょうか。
この点、婚姻前から取得していた財産はもちろん、婚姻期間中に形成した財産であっても夫婦が協力したものではなく一方当事者が独自に形成したものは「特有財産」となり、原則、財産分与の対象とはなりません。
一方、夫婦で協力して形成した財産(共有財産)は、離婚の際の財産分与の対象となります。
具体的には、婚姻期間中に加入した生命保険の解約返戻金(保険料は一方当事者の給与から支払等)、婚姻期間中に貯めた預貯金等が挙げられます。

(2)財産分与と遺産分割との違い

財産分与は、財産を分け合う制度という意味では同じですが、財産分与は離婚の際、遺産分割は相続の際に問題となり、分与となる財産の内容も異なります。

2 遺産は財産分与の対象か

ところで婚姻期間中に一方が遺産を得ていた場合、離婚にあたって遺産は財産分与の対象となるのでしょうか。

(1)相続した遺産は特有財産

遺産は、婚姻の有無にかかわらず、相続人である地位を理由に獲得した財産であることから、夫婦で協力して形成したものとはいえず、原則として特有財産となります。
そのため遺産の大半は離婚の際に財産分与の対象となりません。

(2)例外として認められるケース

このように原則として遺産そのものは財産分与の対象となりませんが、例外的に配偶者の協力や貢献によって遺産の価値が増加・維持したような場合には配偶者の貢献度合いによって財産分与の対象として扱われるケースが少なからずあります。

3 対象となる資産

では、具体的にどのような場合に遺産が財産分与の対象となるのでしょうか。
一例として、遺産と夫婦の共有財産が一体となっている場合があげられます。

相続した遺産を単独で預金口座で管理していた場合であれば、残高=遺産と分かりますが、他の預金と一緒になり出入金を繰り返しているケースでは預金残高が遺産か否か判然としません。
その場合には夫婦共有の財産として推定を受け、財産分与の対象となる場合があります。

4 離婚後でも相続可能?

次に、離婚による相続への影響を見てみましょう。

遺産分割は被相続人(亡くなった人)の遺産(相続財産)を相続人間で分け合います。
離婚後に元配偶者が死亡した場合、誰が相続人として遺産分割をうけることができるのでしょうか。

(1)元配偶者

離婚後、元配偶者が死亡した場合、相手方は相続人ではないため相続することはできません。
なお、離婚前に配偶者が死亡した場合、死亡した時点で一方配偶者は相続人であるため、その後婚姻関係の終了届を提出しても、相続には影響はありません。

(2)子ども(養子縁組した子を除く)

親同士が離婚をしても、親と子どもの関係は継続します。
そのため離婚をしたとしても子どもは親の相続人として相続をうけることとなります。

(3)特別養子縁組した子

特別養子縁組をした子についても、離婚により特別養子縁組は解消されません。
そのため、離婚後に養親が死亡した場合、特別養子縁組を行った子は相続人として相続をうけることとなります。

(4)代襲相続

代襲相続とは、被相続人(死亡した人)よりも先に相続人となるべき人が死亡した場合に、相続人の子どもが代わりに相続人になることをいいます。
離婚によって親子関係は影響を受けないため(親権者は一方の親に定められることになりますが)、離婚前から代襲相続をうける立場にある子は、離婚によって影響は何ら受けません。

(5)養子縁組

離婚をしても、養親と子どもの養子縁組は解消されません。
そのため、離婚の際に養子縁組の解消手続きを行わなければ、離婚後も養親と子どもの関係は継続し、離婚後に養親が死亡した場合、子どもは養親の相続人として相続をうけることとなります。

5 話合いで解決できない場合

第七百六十八条
協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
2 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から二年を経過したときは、この限りでない。

(1)調停

離婚の際の財産分与について当事者による協議が整わない場合は、調停・訴訟といった裁判所での手続きをとることができます。
また財産分与は離婚成立前に協議することが多いですが、先に離婚し、離婚後に財産分与について協議することも可能です。
なお、財産分与の協議は離婚成立から2年以内に行う必要があります。
そのため離婚成立からある程度時間が経過している場合はお気をつけて下さい。

(2)調停の流れ及び注意点

財産分与は、離婚調停若しくは離婚後の財産分与の調停で協議することとなります。
できるだけ調停前に分与の対象となる財産に関する資料を集めておいた方がいいですが、相手方に関する資料が入手できない場合は、調停等の手続を通して入手できる場合もあります。

また調停で協議が整わない場合、①離婚調停で協議しているのか、②離婚後に財産分与のみ協議しているのかによって流れが異なります。

①の場合は、離婚訴訟に移行し、他の離婚条件と併せて財産分与も協議されることとなります。
②の場合は調停不成立後に自動的に審判に移行し、審判で判断されることとなります。
なお②について調停前置主義(いきなり審判ではなく先に調停を申し立てる必要があるもの)にあたらないので、最初から審判を求めることも可能です。
但し、家庭裁判所の運用として、できるだけ当事者同士が協議した方がいいとして、審判から調停に付されることが多いのが現状です。

6 まとめ

離婚の際の財産分与は、何が財産分与の対象となるのか問題となるケースも多く、また対象となる財産が十分に把握できていないケースもあります。
また遺産(相続した財産)についてもまれに財産分与の対象となる場合もあることから、離婚にあたって思いのほか財産分与をうけられる(または支払う)こともあります。
離婚について協議する際には、ご自身がどの程度請求可能か(請求されるのか)把握するためにも、専門家である弁護士に一度ご相談下さい。


執筆者:弁護士 稲生 貴子

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