離婚に伴う慰謝料とは

2023/6/13

 

「慰謝料」というキーワードはよく耳にする言葉ですが、実際にご自身の離婚において慰謝料が発生するの?具体的にいくらもらえるの?等、ご不安な方も多いことと存じます。
そこで今回は、「離婚における慰謝料」について解説いたします。

1 慰謝料には二種類ある?

離婚における慰謝料とは、離婚によって生じた精神的苦痛に対して支払われる賠償金をいいます。
性別に関係なく、離婚に至る原因を作り出した配偶者(有責配偶者)に対して一方配偶者から請求可能なものです。
この慰謝料は理論的に「離婚そのものに対する慰謝料」と「離婚原因に対する慰謝料」の二種類あり、時効や誰に請求可能かといった点が異なります。

(1)離婚そのものに対する慰謝料

何かしらの理由で離婚することとなった場合、離婚という結果によって生じた精神的苦痛を賠償する「離婚そのものに対する慰謝料」が発生することがあります。

①消滅時効のスタート時期

離婚そのものに対する慰謝料の消滅時効のスタート時期(起算点)は、離婚成立時となります。
そのため離婚前の協議で請求していなかった場合であっても、離婚後3年以内であれば法的に請求できることとなります。
この点、離婚原因に対する慰謝料の消滅時効スタート時期は当該事実・相手方を知った時から、と異なるので注意が必要です。

②請求の相手方

離婚慰謝料は、離婚しなければ発生しません。
では発生する場合、誰に請求できるのでしょうか。
この点、よっぽどの事情がない限り、離婚原因を作った夫婦以外の第三者(夫の不貞相手等)には請求できず、有責配偶者に対してのみ請求可能です。

(2)離婚原因に対する慰謝料

上記の離婚そのものに対する慰謝料の他、離婚の原因に対する慰謝料も発生することがあります。
離婚の原因に対する慰謝料は、離婚そのものの慰謝料と異なり、原因となる事実・その原因を作った相手方を知った時から消滅時効がスタートします。
そのため、不貞行為が原因で離婚する場合、不貞行為及びその相手方を知った時から3年以内に慰謝料を請求する必要があります(なお、配偶者に対する慰謝料請求権については、婚姻解消から6か月を経過するまでの間、時効は完成しません。)。
では、どのような場合に離婚慰謝料が発生するのでしょうか。

2 慰謝料請求が認められる場合

離婚原因に対する慰謝料が発生するケースは、一方配偶者が不貞や暴力、悪意の遺棄等を行った場合であり、双方に責任がある場合や性格の不一致といったケースでは発生しないことが多いです。

(1)不貞行為(共同不法行為)がある場合

不貞行為、いわゆる配偶者以外の第三者と性行為(又は性交類似行為)を行った場合、当該配偶者及び不貞相手に対して慰謝料を請求することができます。
この場合、離婚原因に対する慰謝料は有責配偶者及び不貞相手に、離婚そのものに対する慰謝料は有責配偶者に対して請求可能です。
なお、離婚原因に対する慰謝料は、不貞行為を有責配偶者と不貞相手が共同して行ったものであることから、いわゆる「共同不法行為」として、二人が連帯して責任を負うこととなります。

(2)DV・モラハラがある場合

身体に対する暴力(DV)や精神的嫌がらせ行為(モラハラ)も、内容や頻度等次第では離婚原因となり、有責配偶者に対して離婚そのものの慰謝料及び離婚原因に対する慰謝料請求が可能となります。

(3)悪意の遺棄がある場合

夫婦間には、同居し互いに協力する義務(扶養義務)があります。
当該義務に反して、相手方が困窮することを知りながら正当な理由なく見捨てるといった行為を行う場合は「悪意の遺棄」となり、離婚慰謝料が発生する可能性があります。
悪意の遺棄の具体例として

■生活費を配偶者に渡さない

■勝手に家を出る

■家から追い出し、中に入れない

といったことが挙げられます。

(4)その他(信頼関係の破綻)(固有財産の使い込みなど)

上記の原因の他、多額の借金を繰り返す、長期間性行為を理由なく拒否をする、大量の飲酒を行い家庭を顧みない、といった婚姻関係を続けるのが難しくなる重大な理由があるケースでも、離婚慰謝料が発生する可能性があります。

3 慰謝料請求が認められない場合

次のケースでは、離婚が認められても、離婚そのものに対する慰謝料・離婚原因に対する慰謝料が発生しないケースがあります。

(1)性格の不一致・価値観の相違の場合

性格の不一致や価値観の相違といった、夫婦のどちらに責任があるか明確ではないケースでは、一般的に離婚そのものに対する慰謝料・離婚原因に対する慰謝料が発生しないことが多いです。

(2)長期間別居している・夫婦関係が破綻している場合

一方当事者に不貞行為が認められる場合であっても、当該行為時点で既に夫婦関係が破綻している場合は、夫婦の平穏を害したといえないとして、一般的には慰謝料は発生しません。

(3)自らにも離婚原因がある場合

また、夫婦の双方に離婚原因がある場合(W不倫等)、離婚慰謝料が発生しないケースもあります。

4 慰謝料の相場はどれほどか

(1)おおよその目安

理論的に離婚の慰謝料は、離婚慰謝料と離婚原因に対する慰謝料の二種類に分けられますが、実務上では各慰謝料の額を個別に決めるのではなく、まとめて金額を定めます。離婚慰謝料は、法律で定められるものではなく、当事者が合意すればいくらでも構いません。
一方で裁判手続き等を踏まえる場合は、離婚原因の内容等によって50万~300万円程度となります。
なお、300万円以上の高額になるケースもまれにあります。

(2)金額はどのように決まる?金額を増減させる要素(婚姻期間・債務者の年収など)

離婚の慰謝料は精神的苦痛に対する賠償であるところ、①婚姻期間、②子どもの有無、人数、年齢、③不貞行為の回数や程度(その他、モラハラの内容等)等が考慮されて金額が算定されます。
不貞行為が離婚原因の場合、発覚後の対応が悪質な場合は、慰謝料額が増額されるケースもあります。

5 慰謝料はいつまで請求できるか

(1)離婚そのものに対する慰謝料を請求する場合

離婚そのものに対する慰謝料は、前述の通り、離婚成立時が消滅時効のスタート時のため、離婚成立から3年以内であれば請求可能です。
なお、離婚成立前であっても離婚協議の中で請求することは可能です。

(2)離婚原因に対する慰謝料を請求する場合

離婚原因に対する慰謝料は、当該原因及び相手方を具体的に知った時点が消滅時効のスタート時となり、当該時点から3年以内であれば慰謝料請求が可能となります。
なお、配偶者に対する離婚原因に対する慰謝料請求は、婚姻解消から6か月経過後まで時効が完成しませんが、不貞相手等、配偶者以外に対する慰謝料請求の場合、離婚協議が長引いている間に時効消滅する可能性もあるので、ご注意下さい。

6 慰謝料の請求にあたり必要なもの

慰謝料請求に当たって、相手方が支払いを拒絶し調停・訴訟等を提起することが多数あります。
訴訟において慰謝料が認められるためには、離婚原因を示す客観的証拠が極めて重要となります。
では、どのような証拠が有力になるのでしょうか。

(1)不貞行為(共同不法行為)がある場合

性行為を示す客観的証拠(ラブホテルに入る写真、車のドライブレコーダー履歴、SNS等のやり取り、ラブホテルの領収書等)

(2)DV・モラハラがある場合

暴力・暴言を振るわれた際の録音・録画
怪我をした場合は、診断書
警察への被害届等

(3)悪意の遺棄がある場合

経済状況を示す資料(家計簿、相手方の収入資料等)
SNS等のやり取り 等

(4)その他(信頼関係の破綻)

その他も、総合的に見れば離婚原因を示す強力な証拠になる場合があります。
お手元にある証拠はいらないかな?と思っても捨てることなく、弁護士への相談の際に確認してもらって下さい。

7 まとめ

以上のように、離婚の慰謝料は、厳密には離婚そのものの慰謝料と離婚自体の慰謝料の二種類に分かれます。
それぞれ請求相手方や時効消滅の起算点が異なり、また請求にあたって事前に各種証拠をそろえた方が回収可能性を高めることとなります。
既に離婚検討されている方、またこれから離婚を検討する方も、ご自身のケースで離婚慰謝料が発生するのか否か、一度弁護士にご相談下さい。


執筆者:弁護士 稲生 貴子

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