遺言も、ちゃんと書かなきゃ争いに
2020/3/31
自分が遺言を書きさえすれば、子どもたちが相続で揉めることはないとお考えの方は多いでしょう。
しかし、実は、遺言を書いていても(場合によっては遺言を書いたからこそ)、相続でトラブルになるケースはあるのです。
今回は、遺言を書いた場合に想定される相続のトラブルについて、ご説明します。
1 遺言を書いた場合に想定されるトラブル
(1) 遺言により相続人の遺留分を侵害してしまったケース
第1に、特定の誰かに、遺産の全部(または大部分)を取得させる内容の遺言を作成した場合、その遺言が後日の相続トラブルの元となる可能性があります。
民法上の推定相続人とされている人には、遺留分が保障されています(民法1042条)。遺留分とは、相続分のうち、相続人に最低限保障されている部分です。
ちなみに、兄弟姉妹には遺留分が認められていません。
そして、遺言によりある人が遺贈を受けたり、相続人が相続分の指定を受けたりした場合に、推定相続人が取得することになる遺産の価額が、上記の遺留分の価額を下回る場合には、推定相続人は遺留分侵害額請求をすることができる可能性があります(民法1046条1項、2項。なお、2018年に民法が改正(施行は2019年)されたことで、従来「遺留分減殺請求」と呼ばれていた請求が、「遺留分侵害額請求」と呼ばれるようになりました)。
たとえば、相続人の一人だけに遺産の大部分を相続させる旨の遺言を書いたり、相続人以外の人に多額の遺産を遺贈する旨の遺言を書いたりした場合には、遺言者の死亡後に、他の相続人が、遺言により多額の遺産を取得した人に対して、遺留分侵害額請求をすることが考えられます。この場合、遺留分権利者が民事訴訟を提起する等の紛争の発生が想定されます。
(2) 遺言の文言の意味が不明確で争いになるケース
第2に、遺言者が遺言を書いたとしても、遺言に書かれた文言が何を指しているのか不明確な場合には、その文言の意味をめぐって、相続人間で争いになることが考えられます。この場合、話し合いによる解決が困難となり、遺産分割が長期化する等のトラブルが想定されます。
(3) 遺産の範囲が争われるケース
第3に、遺言者が遺言を書いたとしても、遺言に書かれた財産以外の遺産が発見された場合には、その相続をめぐって、相続人間で争いになることが考えられます。この場合、一度終了した遺産分割が蒸し返される等して、遺産分割が長期化する等のトラブルが想定されます。
(4) 新たな相続人が現れたケース
第4に、遺言どおりに遺産分割がなされたとしても、その後に新たな相続人が現れた場合には、既になされた遺産分割は原則として無効となります。そして、遺産分割が無効となった場合、一度は終了したと思われた遺産分割を、新たに現れた相続人も交えてやり直す必要があります。
特に相続人の一部が既に遺産を費消してしまっている場合には、新たに現れた相続人が他の相続人に対し民事訴訟を提起する等の重大なトラブルが想定されます。
(5) 遺言者の遺言能力が争われるケース
第5に、遺言者が遺言を書いたとしても、遺言者が遺言作成当時に重度の認知症であった等の場合には、遺言を作成するために必要な能力(民法963条。「遺言内容を理解し、遺言の結果を弁識しうるに足る意思能力」が必要だとされています。)がなかったとして、遺言の有効性が争われることが考えられます。
この場合、遺言の有効性をめぐって、相続人の一人が民事訴訟を提起する等の重大なトラブルが想定されます。
2 おわりに
いかがでしょうか。
遺言を作成するだけでは、後日の相続人らの間のトラブルを必ず防止できるとは限りません。
また、遺言を作成したことが、かえって後日の相続のトラブルの原因となる可能性さえあります。
後日の相続のトラブルを防止するために、遺言を作成すべきかどうか、遺言を作成するとしてどのような文面にするかについては、専門家と相談の上、慎重に判断することをお勧めします。
執筆者:弁護士 森本 禎
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