芸名・通称名(ニックネーム)などで署名した遺言書の有効性
2019/2/1
こんにちは。
今回も、遺言についてのおはなしです。
さて、民法では、自筆証書遺言を作成する際、遺言者の署名が必要とされています。
皆さまの中には、戸籍等に書かれている自分の本名よりも、仕事関係等で使用している芸名やペンネーム、通称名の方が、周りの人たちや世間に知れ渡っている、という方もいらっしゃると思います。
そのような方が、遺言書にも芸名や通称名で署名したいと考えたとしても、おかしくはありません。
では、自筆証書遺言に芸名やペンネーム、通称名で署名した場合、その遺言書は無効となるのでしょうか。
1 「氏名」の自書が求められる理由
今回、問題になるのは、自筆証書遺言について定めた民法968条1項の「氏名を自書し」にいう「氏名」が、芸名などでもよいのか、ということです。
そもそも、なぜ遺言書に署名が必要なのかというと、遺言者が誰であるかを示し、他人と混同しないようにするためです。
せっかく遺言書を作成したとしても、それが誰の遺言か分からないものや、他の人の遺言だと誤解されるようなものでは、遺産分割の際に混乱を招くことになるため、有効とはならないのです。
そうだとすると、誰の遺言であるかが分かり、他人の遺言と誤解されるおそれのないものであれば、「氏名」は戸籍上の氏名だけでなく、芸名などでもかまわないということになります。
したがって、自筆証書遺言に芸名などで署名した場合でも、遺言書は有効となる可能性が高いといえます。
昔の判例には、「遺言者が何人であるかを知ることができ、他人との混同が生じない場合には、氏又は名のみでよい。」としたものもありますから、例えば、戸籍上は漢字である氏名をひらがなで書いたような場合でも、自筆証書遺言としての効力は認められる可能性が高いでしょう。
注目すべきは、記載された氏名がどれだけの人に認識されているか、浸透しているかは特に問題とされていない点です。
氏名の記載は、遺言者が誰であるか、他人と区別できる程度であれば十分であり、極端な話、「汝の父」のように、氏名の表示を欠く不十分な記載でも、遺言の内容・遺言者の名宛人その他から、遺言者が誰であるかを識別できれば、氏名の記載として足りると解されています。
もっとも、遺言者が誰であるか、他人と区別できるかについて、必ずしも明確な基準があるわけではないので、本名での署名が無難であるということは申し添えておきます。
2 おわりに
自筆証書遺言にいろいろと厳しい条件を定めている民法ですが、このように、「氏名」に関する解釈は比較的ゆるやかといえます。
他にも、「この場合はどうなるの?」「こんな遺言は有効なの?」など、遺言に関するお悩みをお持ちの方は、是非、弊所にお気軽にご相談ください。
相続事件の経験が豊富な弁護士が、相談者様のご希望を叶える遺言の方式選択、内容面・形式面等のアドバイス、作成支援等をさせていただきます。
また、弊所は税理士とも連携しており、節税や相続税の試算も含めた総合的な支援が可能です。
皆さまのご相談をお待ちしております。
執筆者:弁護士 森本 禎