交通事故による車の評価損

2023/10/20

 交通事故により車が損傷して修理を余儀なくされたときは、修理費や代車費用等に加え、評価損を請求できる可能性があります。
 評価損という言葉はあまり聞きなれない言葉かもしれません。
 今回は評価損について解説いたします。

1交通事故の「評価損」とは?

 損傷を受けた車両を修理したとしても、外観や機能に欠陥が残存することがあります。
 また、修復歴があることにより、車両の市場価値が低下することもあります。
 交通事故の「評価損」とは、このような車両価値の低下による損害のことをいいます。
 評価損とは、技術上の評価損と取引上の評価損の2種類があります。

(1)技術上の評価損

 技術上の評価損とは、修理をしても、技術上の限界から機能や外観を完全に回復できない欠陥が残存する場合の損害のことをいいます。
 例えば、 骨格の強度が低下した、修理箇所の塗装にムラがあるなどの場合です。

(2)取引上の評価損

 取引上の評価損とは、修復歴があるとの理由で車両の交換価値が低下する場合の損害のことをいいます。
 修復歴は、単に交通事故による損傷で修理をしたということではなく、次のようなケースに当てはまる場合に認められやすくなります。
 また、人気車や初度登録からの期間、走行距離などによっても評価損の有無及び金額が違ってきます。

2車の「修復歴」とは?

 修復歴とは、自動車公正取引協議会、日本自動車査定協会、日本中古自動車販売協会連合会が統一して定義しています。
 修復歴のある車両とは、「交通事故やその他の災害により、自動車の骨格等に欠陥を生じたもの、または、その修復歴のあるもの」とされています。
 このように、修復歴がある車両といえるためには、自動車の骨組み部分である骨格部分が修復されていることが必要です。
 ただし、修復歴のある車両に該当しなくとも、修理によって価値が低下したと認められる場合は評価損が認められる可能性があります。

3評価損を請求できるのはだれ?

 評価損が認められる場合、評価損を請求できるのは原則として車両の所有者になります。
 したがって、車両を使用している方でも、原則として所有権を有していなければ評価損は請求できません。
 もっとも、車両の所有者と使用者との間で、評価損についての損害賠償請求権は使用者に帰属させるという合意があれば、使用者であっても評価損が請求できます。

(1)一括購入、ローン完済の車両

 車両を現金一括で購入したり、既にローンを完済している場合は、車検証の所有者欄に登録のある方が所有権を取得しています。
 したがって、車検証に登録のある所有者が評価損を請求できます。

(2)所有権留保特約でローンを完済前の車両

 車両を購入する場合、自動車ローンを組んで購入する方も多いと思います。
 自動車ローンを組んで購入した場合、金融機関が購入代金を担保するために、ローン完済まで所有権が留保される特約が付されることが多いです。
 所有権留保特約が付されている場合、購入者は車両を使用することができますが、所有者はローンを組んだ金融機関になります。
 交通事故により評価損を被るのは車両の所有者になるため、使用者である購入者は評価損を被ったことにはなりません。
 そのため、車両の使用者は評価損を請求できません。
 ただし、金融機関から、評価損についての損害賠償請求権は使用者に帰属させるという合意があれば、使用者であっても評価損が請求できます。

(3)リース契約の車両

 リース契約とは、リース会社が使用者の代わりに車両を購入し、リース代金をリース会社に支払うことにより、使用者が車両を使用できるという契約です。
 この場合、車両の所有者はリース会社になり、使用者はリース会社から車両を賃借していることになります。
 そのため、車両の損傷による損害は所有者が負担することになるので、使用者は評価損を請求できません。

4評価損を相手に請求するには?

 評価損を相手方に請求するためには、以下の点について注意が必要です。

(1)請求可能な車両自体に生じた損害

 前提として、交通事故により車両が損傷し、修理を要したことが必要です。
 修理費用が交通事故時点での車両の時価額を上回る、いわゆる経済的全損の場合には、時価額や買い替え諸費用の損害賠償請求はできますが、評価損は請求できません。

(2)どのような場合に認められるのか

 評価損が認められるのは、修理を余儀なくされた場合にどのような車両でも認められるものではありません。
 明確な基準があるわけではありませんが、

(3)保険会社との交渉

 相手方が任意保険会社に示談代行を依頼している場合は、相手方保険会社に対して請求をすることになります。
 任意保険会社は評価損の支払いに否定的な見解を示すことが多いので、交渉の際は、明確な根拠資料を示したり、専門家である弁護士に依頼をするのがおすすめです。

5評価損の算定方法

 評価損の算定方法については様々な方法があり、裁判所でも統一的な基準があるわけではありません。
 裁判例で採用されている算定方法は以下のようなものがあります。

(1)総合勘案基準

 総合勘案基準は、車両の種類、試用期間、損傷の内容、程度、修理費等の諸般の事情を総合的に勘案して算定する方法です。
 具体的な基準は示されないため、交渉では算定しにくい基準になります。

(2)売却金額基準

 売却金額基準は、事故前の売却予定価格と、事故後の売却が見込まれる価格との差額を損害とする算定方法です。
 事故が無かった場合の売却金額と事故後の売却金額を買い取り業者等でそれぞれ見積り、その差額を算定する方法が一般的です。

(3)査定協会基準

 査定協会基準は、日本自動車査定協会に「事故減価額証明書」を発行してもらい、交通事故による車両の価値の低下分を評価損として請求する方法です。
 ただし、裁判においては、事故減価額証明書は評価損認定の一資料とはなるものの、基準が明確でないなどとして、必ずしも採用されるものではありません。

(4)修理費基準

 修理費基準は、実際にかかった修理費用の一定の割合の金額を評価損として算定する方法です。
 過去の裁判例では、この修理費基準を採用したものが多いです。

6評価損の賠償金額の相場

 裁判例で認められている評価損の金額は、算定方法も金額も事案ごとに異なっており明確な基準を示すことはできませんが、概ね以下のような金額が相場と言えそうです。

(1)相場、平均

 一般的には、修理費基準を採用したものが多く、概ね修理費の10%から30%程度の評価損が認められるものが多いです。
 もっとも、評価損を認めない裁判例もあるので注意が必要です。

(2)裁判例

 ①肯定例

 スバル・インプレッサの車種について、初度登録から事故まで約1年3カ月であること、走行距離が1万㎞余であること、損傷の程度、修理内容、修理費用の額等を考慮し、修理費用の約20%に相当する23万円の評価損を認めた事例(東京地判平成30年5月15日)。

 ②否定例

 トヨタ・クラウンの車種について、左ドアミラーの下部の損傷部分・程度を勘案すれば、国産高級車ということを考慮しても評価損は発生しないと判断した事例(東京地判平成12年11月28日)。

7評価損の交渉を弁護士に依頼するメリット

 評価損の交渉を弁護士に依頼するメリットは以下のとおりです。

(1)見通しが立ちやすい

 評価損は、認められるか否かや、請求できる金額は事案により様々であり、明確な基準がありません。
 そのため、評価損が請求できるのか、どのくらいの評価損を獲得できるのかはご自身では見通しを立てにくいところがあります。
 そこで、専門家である弁護士に依頼することで、その見通しを教えてもらうことができます。

(2)相手の保険会社をけん制

 相手方の任意保険会社は、示談交渉で評価損を認めない傾向にあります。
 もっとも、弁護士が示談交渉を行うことで、裁判で認められる可能性がある金額を前提とした話し合いができますので、任意保険会社としても真摯に検討をしてくれる可能性が高まります。
 このように、弁護士が示談交渉を代理することで、相手方保険会社に対するけん制になります。

8まとめ

 以上のように、評価損は請求できるか否か、算定金額などが事情によって大きく異なってくるため、請求のハードルは高くなります。
 そのため、評価損が請求できそうな場合は弁護士に相談されることをおすすめします。
 弁護士に依頼すると評価損以外の損害についても交渉し、最大限の損害賠償の獲得に向けた交渉や訴訟をすることができます。