健康診断の結果の取扱い~把握は事業者の義務?~

2024/8/30

 

労働者に対する1年に1回の定期健康診断の実施は、労働安全衛生法第66条により事業者に定められた義務です。
受診させない場合、罰則が課せられることもあります。
また、法令で義務付けられているのは実施だけに留まりません。
診断結果に対する取扱いや、保管期間についても確認しておきましょう。

1 定期健康診断とは

定期健康診断は、事業者に課せられた義務です。
雇用した週30時間以上(正規従業員の労働時間4分の3以上)働く労働者(パートを含む)に対し、医師による健康診断を受けさせなければなりません(労働安全衛生法第66条第1項)。
検査項目は以下のとおりです。

・既往歴、業務歴等の調査
・自覚症状及び他覚症状の有無の検査
・腹囲、体重、身長、視力、聴力の検査
・胸部エックス線検査等
・血圧の測定
・貧血検査
・肝機能検査
・血中脂質検査
・血糖検査
・尿検査
・心電図検査

2 定期健康診断の実施とその後の対応方法

(1)対象者への受診案内・実施

労働者に対し、健康診断受診についての周知と案内をします。
これを怠り、労働者に健康被害が生じた場合、安全配慮義務違反(労働契約法第5条)に抵触するおそれがあります。
また、労働者の受診拒否や未受診により、受診義務違反となることもあります。
未受診を防げるよう、日時や受診場所の調整を行いましょう。

(2)診断結果の受領及び異常所見の有無確認

健康診断の結果を受領したら、労働者に異常所見がないか確認しましょう。
健康状態に異常があった場合、医師等の意見を取り入れつつ、必要に応じて就業制限等を行う必要があります。
なお、健康診断の結果は、重要な要配慮個人情報です。
誰でも結果を確認出来る、というものではなく、
・人事権を持つ監督的な地位の者、
・産業保健業務従事者
・管理監督者
・人事部門の事務担当者
に当たる者が確認すること、とされています。

(3)診断結果を労働者に通知する(労働安全衛生法第66条の6)

事業者は、所見の有無にかかわらず、労働者に対し、健康診断の結果を文書で通知する必要があります。
結果が届いたら、各個人宛に可能な限り早く通知を出しましょう。

(4)医師(産業医)等からの意見聴取・就業処置の決定等(労働安全衛生法第66条の4、5)

(※労働者に異常所見があった場合)
異常所見のある労働者については、医師・産業医の意見を聴取して就業判定を行う義務があります。
就業判断の内容を踏まえて、労働者の療養や治療を促したり、勤務上の負担を軽減したりするなど、適切な措置を講じることが重要です。
就業判断の区分は、通常勤務・就業制限・要休業があります。
就業上の措置を講じる際は、労働者と十分に話し合いを行い、措置について了解を得てから実行しましょう。
また、努力義務として、健康診断の結果に異常があった労働者には、産業医・保健師による保健指導を行うことが求められています(労働安全衛生法第66条の7)。
労働者の意見を尊重しながら、事業者が生活習慣を改善できるよう、支援しましょう。

(5)労働基準監督署への報告

(※労働者が常時50人以上いる場合)
常時50人以上の労働者を使用する事業者は、「定期健康診断結果」(「特定業務従事者の健康診断結果」)を所轄の労働基準監督署に報告することが義務づけられています。
実施しない場合は法令違反となり、労働安全衛生法第120条に基づいて50万円以下の罰金が科せられます。
また、定期健康診断結果報告書は遅延なく提出しなければなりません。
「遅延なく」という言及はおおよそ1カ月を指します。
定期健康診断の実施が完了した後は、速やかに報告書を提出できるように準備しておきましょう。

(6)健康診断結果の保存(労働安全衛生法第66条の3)

健康診断結果は、一定期間事業者で保管しておく必要があります。
定期健康診断の保存期間は労働安全衛生規則第51条に基づき5年です。
健康診断結果は「要配慮個人情報」のため、労働者本人の同意なく、第三者に情報提供しないなど慎重に取り扱いましょう。

3 おわりに

健康診断の結果を把握するのは、実施することと同様に、事業者の義務です。
労働者が健康で安全に働ける環境を整備するためにも、正しく健康診断を実施しましょう。


監修者:弁護士 瀧井 喜博

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