NHKの受信料に関する判例について
2018/1/5
みなさん、こんにちは。
NHKから未納受信料の請求がきた場合に、支払わなければならないのか、気になっている方も多いと思います。
平成29年12月6日、最高裁判所において、NHKの受信料に関する判決が出ました。
今回は、NHK受信料の支払いに関する最高裁の見解をご紹介したいと思います。
1 受信契約を締結している場合
NHKとの間で受信契約を締結した場合、受信契約に基づき、受信料を支払う義務を負います。
放送受信規約によると、受信契約を締結した者は、NHK放送の受信設備(以下、「テレビ等」と呼ぶことがあります。)を設置した月から、定められた受信料を支払わなければならないとされています。
NHKも、ホームページ等で、NHK放送を受信できるテレビ等を設置した人に対し、受信契約の締結を求めています。
なお、最高裁も明言していますが、テレビ等を設置するだけで、受信料の支払義務が発生するのではありません。
受信契約の締結によってはじめて受信料の支払義務は発生するのです。
NHKとの間で受信契約を締結した者は、受信料の未納分がある場合、当然にその支払義務を負います。
もっとも、最高裁は、平成26年9月5日の判決で、NHKとの受信契約に基づく受信料債権の消滅時効は5年(民法169条)としています。
つまり、5年の消滅時効を援用すれば(時効制度を利用する意思をNHKに伝えれば)、5年を超える分の支払いを免れることができます。
NHKからの書面等による受信料の請求に対し、支払いの拒絶を続ければ、簡易裁判所の書記官による「支払督促」を受けることになるでしょう(NHKのホームページ参照)。
支払督促を受けた場合、異議申立てをしなければ、財産の差押えなどの強制執行をされる可能性もあります。5年の消滅時効を援用する場合は、支払督促が確定する前に、その手続をとるようにしましょう。
なお、債務者が債務を承認した場合、消滅時効は中断します(すでに経過していた時効期間の効力が失われます)。
つまり、NHKから請求される前5年以内に受信料を一部でも支払っていた場合は、時効の援用をすることはできないので、全額支払わなければならないでしょう。
故人がNHKとの間で受信契約を締結していた場合、気付かぬうちに受信料が発生し続けているということが考えられます。
受信契約の対象となるテレビ等を廃棄する場合や、テレビ等を設置していた住居に誰も居住しなくなる場合、故人の相続人となる方は、すぐに解約手続をとるようにしましょう。
2 受信契約を締結していない場合
では、受信契約を締結しなければ、受信料を支払う必要がないのか。
受信契約に関し、放送法64条1項は、NHK放送を受信できる設備(テレビ等)の設置者は、NHKとの間で、「その放送の受信についての契約をしなければならない」と規定しています。
つまり、NHK放送を受信できるテレビ等を設置したときには、NHKとの間で受信契約を締結する義務を負うのです。
それでも、受信契約を締結せず、受信料を支払わなかったらどうなるのか。
契約は、申込みと承諾によって成立します。つまり、NHKが一方的に受信契約の申込みの通知をしてきても、承諾しなければ、契約は成立しないのです。
ただし、民法には、「法律行為を目的とする債務については裁判をもって債務者の意思表示に代えることができる」という規定があります(414条2項ただし書)。
最高裁は、NHKの受信契約の申込みに対し、テレビ等の設置者が承諾をしない場合には、NHKがその者に対して承諾の意思表示を命ずる判決を求め、その判決の確定によって受信契約が成立するとし、放送受信規約どおり、テレビ等を設置した月からの受信料の支払義務を負う、としています。
NHKのホームページには、テレビを設置しているが、受信契約を締結していない人に対しては、受信契約の締結や受信料の支払いを求める民事訴訟を提起すると記載されています。
もっとも、NHKが、受信料を払わない者に対し、書面等による請求もせず、いきなり民事訴訟を提起することはないでしょう。今回の最高裁判決の事案でも、NHKは、テレビ等の設置者に対し、書面で、受信契約の申込みをしていましたが、テレビ等の設置者がこれを承諾しなかったという事情があります。
NHKにより、受信契約の締結や受信料の支払いを求める民事訴訟が提起された場合、この訴訟にNHKが勝訴すると、(テレビ等を設置した日ではなく)その勝訴判決の確定によって、NHKとテレビ等の設置者との間に受信契約が成立します。この契約に基づき、敗訴したテレビ等の設置者は、(判決確定以降ではなく)当該テレビ等の設置の月以降の分の受信料を支払う義務を負うことになります。
この訴訟において、テレビ等の設置者は、5年の消滅時効を援用することはできません。
上記1で述べたように、受信契約を締結した後に未納であった者は、NHKから受信料を請求された場合、5年の消滅時効を援用することができました。
しかし、「消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する」(民法166条1項)ので、判決の確定によって受信契約が成立する今回の最高裁判決のようなケースでは、その判決の確定の時から消滅時効が進行することになるのです。
つまり、受信契約を締結したことがない者が、NHKによる受信契約の締結や受信料の支払いを求める訴訟で敗訴した場合、5年を超えて、場合によっては何十年もの過去のテレビ等を設置した月以降の受信料全額の支払義務を負うことになるのです。
このことについて、最高裁は、テレビ等の設置の月からの受信料の支払義務を認めることが、むしろ設置後速やかに受信契約を締結した者との間の公平を図ることができるとした上、テレビ等の設置者に受信契約を締結する義務があることなどから、受信契約を締結していない者の受信料債務が時効消滅する余地がないのもやむを得ないと判示しています。
NHKが受信料を請求する訴訟を提起する場合、NHKの側が、受信料支払義務の発生するテレビ等の設置時期について立証する責任を負います。
NHKにテレビ等の設置を強制的に調査する手段はなく、テレビ等の設置者による申告がなければ、NHKが速やかに設置を把握するのは困難です。
実際上は、NHKがテレビ等の設置を知りながら何十年も支払請求をしないということはないでしょうから、突然何十年も昔からの受信料の支払を求める訴訟が提起されることは考えにくいでしょう。
なお、今後、受信契約を締結していない世帯が、テレビ等がないことを申告する必要があり、申告がない世帯にはテレビがあるとみなす旨の法律が施行された場合には、NHKがテレビ等の設置時期を立証しやすくなるでしょう。
今回の最高裁判決が出たことで、同様の訴訟が提起されれば、同じような結論が採られるものと予想されます。
執筆者:弁護士 瀧井 喜博