労働関連の法改正に関する最新情報と影響~2024年4月以降の変更点~

2024/3/6

ここ数年、労働関連法が大きく改正され、会社においても知らない間に様々な影響を受けています。
今回は、労働関連法改正の背景と、主な改正点について解説いたします。

1.労働関連法の改正の背景

近年、少子高齢化が進む中、15歳以上65歳未満の人口の生産年齢人口は年々減少し、働き手不足が社会問題となっています。
この問題を解決するため、人々が多様な働き方を選択し、労働生産性を向上させることを目的として、2018年に「働き方改革関連法」(「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(平成30年法律第71号))が公布されました。

同法の一環として、2018年以降様々な労働関連法が改正されてきました。
2023年4月に施行された改正法では、長時間労働の抑制等を目指し、月60時間を超える時間外労働の割増賃金率を「50%」に引き上げ(労働基準法37条)(※大企業では先行して引き上げ済み、中小企業では2023年4月から)され、一部の企業では人件費が増加することが見込まれ、より一層の働き方改革への対応が求められることとなりました。

2.2024年4月以降の変更点

2024年4月以降、数々の労働関連法の改正点について次の5つの施行が予定されています。

⑴労働条件の明示義務の範囲拡大

⑵時間外労働の上限規制につき、建設業界でもスタート

⑶短時間労働者に対する社会保険の適用拡大

⑷裁量労働制における対象労働者の要件の追加

⑸障害者雇用率の引き上げ

順番にご紹介いたします。

 

⑴労働条件の明示義務の範囲拡大

労働契約を締結する際に、使用者は労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならないと労基法15条1項で定められています。
そのため現行法では、労働契約期間、更新基準、就業場所等の事項を書面で明示する必要がありますが、2024年4月からは以下の事項にも明示義務が課されることとなりました。

【全ての労働者に対して】

ア 就業場所・業務の変更の範囲(改正労基則第5条第1項第1号の3)

【有期労働契約の人に対して】

イ 更新上限の有無と内容(改正労基則第5条第1項第1号の2)、新設・短縮の場合の事前説明(改正雇止めに関する基準第1条)

ウ 無期転換申込機会(改正労基則第5条第5項・第6項)

エ 無期転換後の労働条件(改正労基則第5条)

 

≪明示事項の例≫

ア 就業場所・業務の変更の範囲(2024年4月以降に雇用契約締結する際に適用)

就業場所等に制限がない場合は、「会社の定める○○」と記載するほか、変更があり得る就業場所等の範囲が明確な場合には、変更の範囲を一覧表として添付する方法もあります。
トラブル防止の観点からは、できる限り就業場所・業務の変更の範囲を明確にし、労使間でコミュニケーションを取り認識を共有することが重要となります。
就業場所等に制限がある場合は、就業場所や業務の変更範囲が一定の範囲に限定されている場合は、その範囲を明確にすることが求められます。
また、テレワークが想定される場合は、就業場所として「労働者の自宅」や「テレワークを行う場所」等も記載しておきましょう。

イ 更新上限(通算契約期間または更新回数の上限)の有無と内容の明示

有期雇用の場合、従前から契約更新の有無や判断基準を明示する必要がありました。
これに加えて、有期契約に関して更新上限がある場合にはその内容の明示が必要となります(例:「契約期間は通算4年を上限とする」「契約の更新回数は3回まで」)。
なお、労働条件の明示は契約締結時だけでなく、更新時にも必要となります。
また、契約更新の上限を新たに設け又は更新上限を短縮する場合は、条件を明示する前に、予め労働者に変更の理由を説明する必要があります。

ウ 無期転換申込機会の書面の明示

契約期間に定めがある労働契約に関して、同じ使用者の元で5年を超えて有期労働契約が更新された労働者からの申し込みがあった場合、期間の定めのない労働契約に転換される「無期転換ルール」があります。これについて2024年4月以降、「無期転換ルール」が適用されるタイミングごとに「無期転換を申し込むことができる旨(無期転換申込機会)」を書面で明示する必要があります。

エ 無期転換後の労働条件の書面明示時期の追加

無期転換申込権が発生する契約更新時に、無期転換後の労働条件について明示する必要があります。
この条件明示のタイミングにつき2024年4月以降は、無期転換申込権が生じる契約更新時と、無期転換申込権の行使による無期労働契約成立時、となります。
なお、既に契約更新時に通知しており、契約更新時に示した内容と無期転換後の条件がすべて同じ場合には、すべての事項について同じであることの書面交付等により対応することが可能となります。

2024年4月の改正法施行により、労働条件明示義務の内容が追加されることから労働条件通知書又は労働契約書の見直しが必要となります。
また有期雇用契約者については、通算契約期間や更新回数等を確認し、無期転換ルールの対象者を把握する等、明示義務を果たせるよう事前の準備が必要となります。
労働条件の明示義務に違反した場合、30万円以下の罰金が科せられる(労基法120条)ことからも、施行日前までに労働条件通知書見直し等の対応を行うことをお勧めいたします。

※厚生労働省HP:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_32105.html

こちらに関しては、次の記事で、締結する労働契約の種類別の具体的な明示内容をご紹介いたします。
2024年4月の労働法改正~労働条件明示のルール~

⑵時間外労働の上限規制

ア 一部業種の適用猶予期間終了

時間外労働の上限規制は2019年4月(中小企業では2020年4月~)から適用されていますが、建設業等の一部では適用が猶予されていました。
しかし2024年4月以降は猶予期間が終了し、建設業等でも時間外労働の上限規制が適用されます。

イ 改正後の上限

労働時間は原則1週40時間、1日8時間(法定労働時間)以内の必要があり、時間外労働については、以下の上限規制が課せられます。

■時間外労働が年720時間以内

■時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満

■時間外労働と休日労働の合計について、「2か月平均」「3か月平均」「4か月平均」「5か月平均」「6か月平均」の全て1か月当たり80時間以内

■時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年6か月が限度

上限規制に違反した場合は、罰則(6か月以下の懲役または30万円以下の罰金)が課せられる可能性があるのでご注意下さい。

 

⑶短時間労働者への社会保険の適用拡大

2024年10月以降、社会保険の適用範囲が拡大され、被保険者数「51人以上」(改正前は「101人以上」)の企業で働く週20時間以上の短時間労働者に社会保険の加入が義務付けられます。対象となる加入者には事前に通知し、保険加入等の漏れがないようご対応ください。

 

⑷専門業務型裁量労働制の要件追加

裁量労働制とは、みなし労働時間制(労基法38条)の一つで、実際に働いた時間に関係なく、労使協定で定めた一定の時間を労働時間として賃金が支払われる制度を言います。
実際に働いた時間が予め契約した労働時間より長くなっても残業代は発生せず、長時間労働を招く恐れもあることから、裁量労働制が適用される職種は、

■専門職(専門業務型裁量労働制)

■経営・企画管理等のホワイトカラー(企画業務型裁量労働制)

に限定されています。このうち、専門業務型裁量労働制について、①対象業務、②導入時の手続きが追加されることとなります。

 

ア 専門業務型裁量労働制の業務について

業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務を対象としており、現行法では19種類の業種が指定されています。
改正法では、「銀行又は証券会社における顧客の合併及び買収に関する調査又は分析及びこれに基づく合併及び買収に関する考案及び助言の業務」(※いわゆるM&Aアドバイザーの業務)が追加され、合計20種類となります。

 

イ 導入時の手続き

導入に当たっては、

■事業場の過半数で組織する労働組合

労働組合がない場合は

■労働者の過半数代表者との間で、一定の事項を定めた労使協定を締結し、これを所轄の労働基準監督署に届け出ること

が必要となります(労基法38条の3第1、2項、38条の2第3項)

また、労使協定に関して改正法では

■制度の適用に当たって労働者本人の同意を得なければならないこと

■制度の適用に労働者が同意をしなかった場合に不利益な取扱いをしてはならないこと

■制度の適用に関する同意の撤回の手続

を定める必要があります。労働者の同意については、労働制を定めるときだけでなく、労使協定の有効期間ごとに取得する必要があります。
また記録について労働者ごとに作成し、労使協定の有効期間中およびその満了後5年間(当面の間は3年間)保存する必要があります。
導入手続きを実施しなければ、労使協定が無効となりますのでご注意下さい。

 

ウ 健康・福祉確保措置の強化

対象業務に従事する労働者の労働時間の状況に応じて、当該労働者の健康および福祉を確保するための措置を講じることが必要となります。

 

⑸障害者雇用率の引上げ

障害者雇用の法定雇用率は、0.2%上昇し、2024年4月から2.5%となります。
また法改正により「従業員40.0人以上」の企業が対象となります。今後法定雇用率は段階的に引き上げられることが決まっており、2026年7月から2.7%となる予定です(従業員37.5人以上の企業が対象)。

 

⑹外国人雇用状況の届出対象者変更

2024年には入管法改正に伴い、外国人雇用状況届の記載内容の変更が予定されています。
外国人雇用を行っている会社は、届出書式の変更等、ご注意下さい。

 

3.経営者の取るべきアクション

2024年の労働関係改正法の施行は、実務に影響が生じるものばかりです。
経営者の方は、労働条件通知書の見直しはもちろんのこと、労働時間の上限規制が適用対象となる企業は、改めて従業員の働き方を考える機会です。
また、短時間労働者の社会保険等の適用範囲が拡大されることから、会社負担の保険料も併せて検討が必要となります。
どの法改正の適用を受けるのか全て把握できていない会社も多くあることと存じます。今回の労働関連法の改正前に、改めて法改正に対応した社内でのルール作りを行うためにも一度弊所までご相談下さい。