従業員を解雇したい!~抑えておくべきポイント~

2024/1/10

 

会社にとって問題のある従業員を解雇したいと考えたことは、経営者として一度はあるかもしれませんし、今後起こり得るかもしれません。
しかし、従業員の解雇は、従業員との間の雇用契約を一方的に終了させることになり、従業員の生活に著しい影響が出ることから、解雇ができる場合は法律上厳格に制限されています。
そこで、今回は従業員を解雇したい場合に、解雇が違法にならないために押さえておくべきポイントについて解説します。

1 解雇の種類

解雇には、大きく分けて、普通解雇、懲戒解雇、諭旨解雇、整理解雇の4つの種類があります。
それぞれ以下のように、解雇される理由や法的な根拠が異なっています。

(1)普通解雇

①解雇理由

普通解雇とは、解雇をせざるを得ない事情がある場合に会社が従業員との雇用契約を一方的に終了させることをいいます。
普通解雇をするには、「客観的に合理的な理由」が必要です。客観的に合理的な理由とは例えば従業員の病気やけがによって働くことができなくなったり、勤務成績が著しく悪い場合などが挙げられます。
また、普通解雇が適法とされるためには、解雇が「社会通念上相当」であることが必要です。具体的には、解雇以外の手段で対応ができないか、他の従業員と比べて処分が重すぎないかなどの事情も考慮されます。

②根拠

普通解雇は労働契約法16条を根拠に認められています。

(2)懲戒解雇

①解雇理由

懲戒解雇とは、従業員が社内の秩序を乱す行為をしたときに会社が従業員との雇用契約を一方的に終了させることをいいます。
懲戒解雇の理由は、「客観的に合理的な理由」が必要です。客観的に合理的な理由とは、例えば従業員の犯罪行為、私生活上の非行、業務命令違反など、普通解雇の場合に比べて悪質な行為が挙げられます。
また、懲戒解雇が適法とされるためには、普通解雇と同じく、「社会通念上相当」であることが必要です。具体的には、解雇以外の手段で対応ができないか、他の従業員と比べて処分が重すぎないかなどの事情も考慮されます。

②根拠

懲戒解雇は労働契約法15条を根拠に認められています。普通解雇と異なり、前提として懲戒事由が就業規則に定められていることが必要です。

(3)論旨解雇

①解雇理由

諭旨解雇とは、会社が従業員に対し、解雇の理由を告げ、退職を勧告することです。
懲戒解雇処分よりも軽い処分ですが、雇用関係を終了させるという意味では同じことなので、懲戒処分に準じた解雇理由が必要です。

②根拠

諭旨解雇処分に明文の根拠はありませんが、懲戒処分の一種なので、懲戒解雇処分と同様に判断されます。
普通解雇と異なり、前提として懲戒事由が就業規則に定められていることが必要です。

(4)整理解雇

①解雇理由

整理解雇とは、会社の経営難や事業の縮小等の理由により人員削減をするために行われる解雇のことをいいます。
整理解雇は、単に会社の経営難や事業の縮小という理由があればよいのではなく、判例上①人員削減の必要性、②解雇される人物選定の合理性、③解雇回避努力をしたか、④手続の相当性を満たした場合に適法になります。

②根拠

整理解雇は、普通解雇の一種なので、普通解雇と同様に、労働契約法16条を根拠に認められています。

2 解雇できない場合

解雇は、会社が解雇をしたいときに常にできるものではなく、法律上明示的に解雇が禁止されている場合があります。
また、解雇が禁止されていない場合でも、解雇ができる場合は厳格な条件があります。解雇は原則として解雇の30日以上前に解雇予告をしなければできません。

(1)法律上解雇できない場合

法律上、業務上のけがや病気での休業中及びその後30日間、産前産後の休業期間及びその後30日間は原則として解雇できません。
例外として、会社が打切保障(法律で定められた賃金保障)を行った場合や、天災等のやむを得ない事情で事業の継続が困難になった場合にのみ解雇が可能です。

(2)法律上無効とされる場合が多い

法律上解雇が禁止されない場合でも、解雇については法律上厳格な制限があります。
労働契約法16条において、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」とされており、解雇にあたっては、①客観的に合理的な理由、②解雇が社会通念上相当であることが必要になり、これらの条件を満たさなければ解雇は無効となり、不当解雇になります。

3 不当解雇になるとどうなる?

不当解雇となり従業員の解雇が無効になった場合、解雇は初めからなかったものとなるので、雇用契約は継続していることになります。
それに伴い、①従業員が戻ってくる、②バックペイを支払わなければならない、③慰謝料を支払わなければならない可能性がある、という状況になります。

(1)従業員が戻ってくる

雇用契約が継続していることになると、会社は従業員を復職させ、従業員に対して給与の支払いをしなくてはならなくなります。

(2)バックペイを支払わなければならない

復職後の給与の支払いのみならず、バックペイの支払いもしなければなりません。
バックペイとは、従業員が不当な解雇により働けなかった期間中に本来受け取るべきであった賃金のことをいいます。

(3)慰謝料を請求される可能性

バックペイとは別に、従業員から慰謝料の請求を受ける可能性があります。
慰謝料は、不当解雇され、従業員が精神的苦痛を受けたことに対する賠償となります。
慰謝料の金額は事情によって異なりますが、一般的には50万円から100万円程度となることが多いです。

4 有効と認められる条件

解雇が有効とされる典型的な事例は以下のとおりです。
もっとも、解雇が有効と認められるのは、解雇に客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当である場合に限られます。
そのため、以下のような事情がある場合に、常に解雇が認められるわけではないことに注意が必要です。

(1)問題行動を起こす、勤務態度の悪い正社員

会社の物を盗む、横領するなどの犯罪行為がある場合は、解雇が認められやすくなりますが、遅刻や居眠りなどの問題行為については、一度の行為を捉えて解雇をするというのは正当化されにくいです。
まずは問題を起こした従業員に対しての注意や指導を行い、改善の機会を与えることが必要です。
何度指導をしても改善しないという事情が続いての解雇であれば、有効となる可能性はあります。

(2)無断欠勤をする正社員

無断欠勤は解雇事由となり得ますが、数日程度の欠勤による解雇は有効とは言えません。
裁判例では、2週間以上の欠勤による解雇を有効とした事例があるので、無断欠勤による解雇は2週間以上休んでいるかがポイントとなります。
また、欠勤の原因が職場のパワハラやセクハラなどの職場環境によるものではないことも解雇の有効性を判断するうえでポイントとなります。

(3)能力不足の正社員

業務成績が悪い、業務上のミスを繰り返すなど、能力不足があることも解雇事由となり得ます。
解雇が有効と判断されるためには、従業員に対して教育や指導を十分に行っているにもかかわらず改善が見られなかったり、従業員の適性に応じた配置転換を行っても改善が見られなかったなどの事情が必要です。

(4)経営上の事情

業績の悪化や事業の縮小に伴う解雇のことを整理解雇といいます。
整理解雇が認められるためには、①人員削減の必要性、②解雇される人物選定の合理性、③解雇回避努力をしたか、④手続の相当性を満たしていることが必要です。

5 従業員解雇について弁護士に依頼するメリット

従業員の解雇については、以下の点から解雇に踏み切る前に弁護士に相談や依頼をすることをおすすめします。

(1)誤った対応をするリスクが抑えられる

解雇は従業員の生活に影響を及ぼすことから、法律上厳しい制限があります。
そのため、解雇が認められない事情があるにもかかわらず解雇してしまうというリスクがあります。
そこで、弁護士に事前相談をしてアドバイスを受けることで、違法な解雇とされるリスクを抑えることが可能になります。

(2)代わりに交渉してくれる

また、解雇をする際の従業員との話し合いや、従業員から解雇の有効性について争われた場合の交渉を任せられるというメリットもあります。

(3)顧問契約をすることで気軽に相談できる

従業員を解雇するタイミングはいつ訪れるか分かりません。
そこで、事前に顧問契約を締結しておくことで、気軽に弁護士に解雇の相談や、それ以外の労務の相談をすることができ、会社の法的リスクを抑えることに繋がります。

6 まとめ

以上のように、従業員を解雇する場合、様々な法的な制限があり、不当解雇となってしまうとバックペイや慰謝料の支払いなど会社にとって大きな不利益となりかねません。
従業員を解雇したいと考えている経営者の方や、従業員から不当解雇だと言われた場合は弁護士に相談されることをおすすめします。


執筆者:弁護士 森本 禎

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