離婚後の生活費も払ってもらいたい!元配偶者に請求できる?
2023/10/3
子どもが幼いことから外に働きに出られない、職歴がない、持病により就労が難しい等、離婚後の生活が不安な方も大勢いらっしゃることと思います。
離婚後も、元配偶者から生活費がもらえるのでしょうか?
今回は離婚後の生活費用について、解説いたします。
1 離婚後の生活費、払ってもらえる可能性
(1)原則、離婚後は生活費の分担義務はない
婚姻期間中は「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」(民法752条)と、夫婦相互に扶養義務があります。
そのため離婚成立までの間、婚姻中の生活費について分担義務があります(婚姻費用分担義務)。
すなわち、離婚成立までは相手方に生活費を請求することは可能です。
しかし、離婚により夫婦間の扶養義務はなくなります。そのため、離婚後は相手方に生活費用の支払を強制することはできません。
もちろん離婚後も相手方が任意で支払ってくれるのであれば問題ありません。
但し、離婚後の生活費用の支払いはあくまでも任意ですので、離婚協議の際にしっかりと話し合っておく必要があります。
(2)扶養的財産分与
前記の通り、離婚後は各自の収入で生活し、相手方に自らの生活費の支払いを強制することはできません。
但し、財産分与の一貫として離婚後の生活費の支払いを求めることができる場合もあります(扶養的財産分与)。
これについては、後述いたします。
2 離婚後の生活費を受け取る際に決めるべきこと
任意に離婚後の生活費を負担するとして、①金額、②支払い方法を決めておく必要があります。
(1)受取方法
離婚時に一括で支払いを受けることも可能です。
しかし一括で受領すると短期間で費消する可能性もあります。
生活費と同じく、毎月一定額を支払ってもらうということも可能です。
(2)いつまで支払ってもらうか
いつまで支払うかについても法律上の定めはありません。
生活が困窮することを理由に扶養的財産分与を受ける場合は、生活困窮の原因により支払終期を協議してみるのがよいでしょう。
数年で自立可能な場合には数年、病気が根治せず就労困難な場合は、相手方が死亡するまで支払うといった内容に定めることも可能です。
3 別居中(婚姻関係継続中)であれば婚姻費用を請求
(1)別居中は生活費(婚姻費用)を支払う義務がある
離婚前であれば別居中であっても夫婦間で扶養義務はあることから、一方に対して生活費(婚姻費用)を支払う必要があります。
(2)婚姻費用の決め方
婚姻費用は、当事者同士の合意で定めることが可能です。
一方金額に関して算定方法にまつわる紛争もありますが、一般的に双方の所得を基準に算定します。
4 離婚時に請求可能なお金
離婚時に請求可能なものとして、①財産分与、②養育費、③慰謝料が考えられます。
(1)財産分与
1)婚姻期間中に夫婦で形成した財産は、共有財産として離婚時に双方の貢献に合わせて分配します(財産分与)。
財産分与には、①清算的財産分与、②慰謝料的財産分与、③扶養的財産分与があり、離婚後の生活費用の支払いとして③扶養的財産分与を受けるケースがあります。
では、扶養的財産分与を受けるケースとは、どのようなものでしょうか。
ア 相手方にもっぱら離婚原因がある場合
離婚原因について一方当事者に責任が大きく、責任がない方が離婚後、経済的に困窮してしまう場合は、離婚時の財産分与の一貫として離婚後の生活費の支払いが認められることがあります(扶養的財産分与)。
例えば、長年夫が不貞行為を行い、それが理由で離婚になり、その離婚により妻が経済的に困窮する場合、慰謝料や養育費とは別に、財産分与の中で離婚後の生活費も考慮した分与が行われることがあります。
イ 相手方にもっぱら離婚原因があるケースではないが、配偶者が経済的に困窮する可能性がある場合
離婚原因に関してもっぱら一方当事者が有責ではなくても、他方当事者が離婚により経済的に困窮することが明らかな場合には、扶養的財産分与が認められるケースもあります。
単に生活に不安があるという理由や、結婚中と同じように生活したいので離婚後も生活費を払ってほしいというケースでは扶養的財産分与が認められる余地は極めて少なく、病気等で就労できないケース等、扶養的財産分与が認められるのは、それほど多くはありません。
2)では、どのような財産が財産分与の対象となるのでしょうか。
ア 退職金
既に支払われた退職金や、相当先に支給予定の退職金等、様々なケースがあり財産分与の対象となるか一概にはいえません。
分与対象額についても、退職金の支給の見込み等が影響することから、退職金が財産分与の対象となるか、どの程度の額となるのかは、弁護士にご相談下さい。
イ 婚姻前の預貯金
婚姻期間中に築いたものが財産分与の対象となることから、婚姻前の預貯金は財産分与の対象となりません。
ウ 借金
借金について、ギャンブル等個人的な理由で負ったものについては財産分与の対象となりません。
一方、生活費等のために使用したものは財産分与の対象となります。
他のプラスの財産が借金を下回る場合は、財産が分与できない一方で、借金について誰がどのように返済していくかが問題となります。
エ 住宅ローン
住宅ローンが評価額を上回る場合は、オーバーローンとして分与が行えなくなります。
また離婚に当たり、売却をするのか、どちらから居住し続けるのか等、ローンの返済方法のみならず、不動産の処理についても検討する必要があります。
オ 相手の親から相続した財産
相手方の親から相続した財産は、婚姻期間中に夫婦で協力して形成した財産には当たりません。そのため財産分与の対象とはなりません。
(2)養育費
離婚は、子どもの生活費して養育費請求可能なります。
養育費については原則双方の収入を基に算定しますが、相手方が任意に支払うのであれば金額算定方法に特に取り決めはありません。
(3)慰謝料
相手方が不貞行為を行っている等、もっぱら相手方に離婚事由がある場合は、慰謝料請求を行うことが可能です。
交渉で合意できない場合は、離婚前は離婚調停内で(調停不成立後は離婚訴訟で)、離婚後は慰謝料調停若しくは、一般民事訴訟を提起することとなります。
慰謝料請求は時効の関係から離婚成立後3年以内に行う必要があるため、ご注意下さい。
5 生活が不安なときに受けられる公的支援
離婚後、生活が困窮することも多いことから公的支援の用意があります。
公的支援の一例は次の通りです。
(1)手当
①児童手当、児童扶養手当
中学までの子どもを養育している人に対して支給される児童手当、シングルマザー(ファーザー)を対象とした児童扶養手当があります。
いずれも所得制限があることから、お近くの市役所にお問合せ下さい。
(2)貸与
①母子福祉資金貸付金
母子家庭(父子)、寡婦の経済的自立や子どもの福祉のため、母子父子寡婦福祉資金の貸付制度というものがあります。
使用できるか否かは、お近くの市役所担当窓口にお問合せ下さい。
②生活福祉資金貸付制度
また、ひとり親の経済的自立を支援する母子(父子家庭自立支援給付金)という制度もあります。
これは対象となる教育訓練を受講し、修了した場合、かかった費用の6割の支給を受けることができます。
(3)控除や減免
ひとり親家庭の医療費助成や母子家庭等医療について費用が免除される場合があります。
また、年金等についても一定の条件を基に支払い猶予を受けたり、免除される場合があります。
6 まとめ
離婚にあたって経済的に自立可能か心配な方も多いことでしょう。
また離婚協議を進めることで心身ともに手一杯となり、離婚後の生活のため十分に用意を行えない方も多いかと思います。
しかしながら、ご自身や子どもたちのためにも、離婚後の生活を考えることも必要です。
執筆者:弁護士 稲生 貴子