特商法~改正のポイント~

2023/8/30

1特定商取引法(特商法)とは

特定商取引法(特定商取引に関する法律)とは、事業者による違法・悪質な勧誘行為等を防止し、消費者の利益を保護することを目的とします。
特商法とも呼ばれますが、以下の7つの取引に適用されます。

(1)訪問販売

事業者が消費者の自宅を訪問し、商品や権利の販売又は役務の提供を行う契約をする取引類型。
キャッチセールスやアポイントメントセールスも含みます。

(2)通信販売

事業者がインターネットや新聞等で広告し、電話やメール等の通信手段で申込みを受ける取引類型。

(3)電話勧誘販売

事業者が電話で消費者を勧誘し、申込みを受ける取引類型。

(4)連鎖販売取引

いわゆるマルチ商法等。
個人を販売員として勧誘し、その個人に次の販売員を勧誘させ、販売組織を連鎖的に拡大して行う商品・役務の取引類型。

(5)特定継続的役務提供

長期的・継続的な役務の提供と、これに対する高額な対価を約束する取引類型。
エステや語学教室等7つの役務が対象として指定されています。

(6)業務提供誘引販売取引

いわゆる内職商法。
仕事を提供するので収入が得られます!といったように消費者を勧誘し、実際には商品を売りつけ金銭的負担を負わせる取引類型。

(7)訪問購入

事業者が消費者の自宅を訪問して、物品購入を行う取引類型。

2【2022年6月施行】改正のポイント

2022年6月1日施行の特商法改正は、次の5点です。

(1)クーリング・オフ通知の電子化(9条1項、2項等)

(2)通信販売における規制強化(11条、12条等)

(3)行政処分の強化(8条の2等)

では各改正内容について、みていきましょう。

(1)クーリング・オフの通知の電子化

これまでクーリング・オフの通知について、解除通知書を事業者に送付するといった書面による方法に限定されていました。
しかし2021年改正(2023年6月1日に施行)により、「書面又は電磁的記録」により行うことが可能となりました。
なお、特商法では「電磁的記録」に関し方法を限定していないことから、電子メールの他、ウェブアプリのメッセージ機能、ウェブサイトのフォーム等、幅広い通知方法が可能となっています。
事業者としては様々な方法によりクーリング・オフ通知が来ることを前提に、予め対応策を検討しておくことが求められます。

(2)通信販売における規制強化

通信販売の広告において表示すべき事項が拡大され、申込みに関する規制も新設されました。
近年流行しているサブスクリプションサービスの普及により、知らない間にサブスクリプション契約を締結していた、といったトラブルが急増しています。
そのため、改正特商法では、通信販売の契約書面やECサイトの注文内容確認画面における記載事項が定められました。
具体的な改正内容は、次の通りです。

①広告表示の拡大

インターネット販売等では、ホームページ上に「特定商取引法に基づく表示」を表示する必要があります。
その中で、

■契約の申込期間

■役務提供契約に対する申込みの撤回・解除の定め

■定期役務提供契約における金額、契約期間その他の提供条件

に関する記載も必要となりました(特商法11条)。

②注文画面における表示事項の拡大

インターネットによる取引において、最終注文画面で注文内容を表記することは従前から求められていましたが、サブスクリプションサービスの普及によりトラブルが増加したため、より表示事項が改めて整理されました。
具体的には

■当該売買契約に基づいて販売する商品若しくは特定権利又は当該役務提供契約に基づいて提供する役務の分量

■商品若しくは権利の販売価格又は役務の対価(販売価格に送料が含まれない場合は、販売価格の他送料も記載)

■商品若しくは権利の代金又は役務の対価の支払の時期及び方法

■商品の引渡時期若しくは権利の移転時期又は役務の提供時期

■商品若しくは特定権利の売買契約又は役務提供契約に係る申込みの期間に関する定めがあるときは、その旨及びその内容

■商品若しくは特定権利の売買契約又は役務提供契約の申込みの撤回又は解除に関する事項

インターネット販売を利用する際は、上記内容が記載されているかご注意下さい。

③誤認表示の禁止

インターネット販売において、注文内容を最終確定していない段階で、クリックしたとたん注文完了となった場面に遭遇された方もいらっしゃるかと思います。
またサブスクリプション契約であることを目につきにくい場所に記載し、通常契約と消費者を誤認させることもあります。
このように消費者の誤認を招くような表示は禁止されています。

④取消権の新設

これまで取消権が法定されていなかったところ、一定の場合に取消権の行使が可能となりました(特定商取引法第15条の4)。
その他にも、⑤不実告知の禁止、⑥顧客の意に反して契約の申込をさせようとする行為の禁止といったものが通信販売における規制強化としてあげられます。

(3)行政処分の強化

行政処分についても強化され、①立入検査権限が拡充、②業務停止命令・業務禁止命令の対象となる法人の役員等の範囲が拡大されました。

3【2023年6月施行】改正のポイント

(1)契約書面の電子交付

これまで訪問販売等一定の取引を行う場合は、契約内容を記載した書面を消費者に交付する義務がありました。
インターネット販売での例外的ケースを除き、メール等の電子データで交付することは認められておらず、書面交付を怠った場合は罰則も規定されていました。
これについて2023年6月改正では、一定の書面について電子交付による方法も認められました。

(2)電子化が可能な書面

電子交付が可能となる書面は、①概要書面、②申込書面、③契約書面の3種類となります。

①概要書面

特商法に該当する取引において、取引の概要を記載した書面。
連鎖販売取引、特定継続的役務提供、業務提供誘引販売において交付義務あり。

②申込書面

申込内容を記載した書面。訪問販売、電話勧誘販売、訪問購入において、事業者が申込を受けた際に消費者に交付する義務あり。
申込みと同時に契約を締結する場合には不要。

③契約書面

契約の内容を明らかにするための書面。
特商法の取引類型から、通信販売を除く全ての取引において交付義務あり。

4書面を電子化する際の流れ

契約書等を電子交付するためには、一定のルールがあります。

(1)事前の承諾

事前に消費者の承諾を得る必要があります(特商法4条2項、5条3項)。
これは各書面ごとに承諾を取得する必要があるのでご注意下さい。

(2)電磁的な方法による提供

交付方法について、事業者から消費者に対し、承諾を得る前にあらかじめ電子交付にあたってデータ提供の種類及び内容を提示する必要があります(特商令4条1項)。
「データ提供の種類及び内容」とは、①事業者が用いる電磁的方法の種類、②ファイルへの記録の方式をいいます。
①電磁的方法の種類として、
■メール等でのデータの送信による方法

■事業者のウェブサイト等に掲載し、消費者が閲覧できるようにする方法

■USBフラッシュドライブ、CD-Rなどの記録媒体にデータを保存し、同媒体を交付する方法

が法定されています。

なお交付するデータについて、

■データを出力して書面に印字できるものであること

■データの改変が行われていないかを確認できる措置が講じられていること

といった適合基準も法定されています。

提供するデータについても

■明確に読むことができるようにしなければなりません。

(3)提供実施の確認

事業者は、消費者に契約書等を電子交付した場合、提供したデータが消費者にきちんと到達しているか確認しなければなりません。
そのため、事業者側は到達に関して何かしらの記録を残しておく必要があります。
さらに、電子交付に関する承諾について、承諾後に、交付を受けない旨の申出を行うことで承諾を撤回することが可能です。
承諾を撤回された場合、電子交付はできないため、書面を交付する必要があります。
承諾の撤回に関して紛争が生じないためにも、承諾及び撤回に関して何かしらの記録を残しておくことをお勧めいたします。

5まとめ

特商法については、自身の契約が適用対象となっていることに気づかない人も大勢いらっしゃいます。
改正法は事業者、消費者双方にとって利便性が向上したものといえますが、一方で、既存の契約書等、ホームページでの対応では特商法違反となる可能性も否定できません。
ご自身の取引が改正特商法に対応した内容となっているのか気になる方は一度弊所までご相談下さい。