家庭内別居とは?

2023/8/1

 

夫婦関係が冷め切って、もはや夫婦としての共同生活を行っていない、いわゆる「家庭内別居」を行っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回は、「家庭内別居」について紹介したいと思います。

1 家庭内別居とは

家庭内別居とは、法律で定義はされていませんが、一般的に「同じ家に暮らしてはいるけど、夫婦としての共同生活を行っていない状態」をいいます。
家庭内別居につき、配偶者からの干渉がなくむしろ快適、と感じる方もいらっしゃるかと思います。
一方で、夫婦関係がますます悪化し、双方にとって精神的・経済的に負担となっている方も多いのではないでしょうか。
家庭内別居について、どのように対応すべきか、まずはどのような状態が家庭内別居に当たるのか見ていきましょう。

(1)自分の家事しかしない

食事は別々、用意をしても自分の分だけ、洗濯も自分のもののみ、といったように、自身に関する家事のみを行う場合があります。
仕事等の関係から食事は別にするという、というものであれば家庭内別居にはあたりませんが、他人同士が、それぞれ独立した生活を行う、というような状態であれば家庭内別居となります。

(2)コミュニケーションを取らない

共同生活をする上で、最低限のコミュニケーションは必要です。
特に子供がいれば子供の監護に関して夫婦で情報共有する必要性も出てくるにもかかわらず、十分にコミュニケーションを取らないケースもあります。
夫婦で一緒に生活しているにもかかわらず、最低限の情報のやり取りのみ行う、数か月も口をきいていないといった形で家庭内別居を行っていることもあります。

(3)生活費の管理が別

夫婦には本来扶養義務があり、双方協力して生活を行う必要があります。
この点、双方で協議を行い経費分担制として、一定程度家計を別とするケースもあります。
このようなケースでは双方適切にコミュニケーションを取り、必要な部分では夫婦として相互に扶養していれば家庭内別居とはなりません。
一方で、家計について管理を別とし、相手方がどの程度費消しているのか等全く不明である場合等には、家庭内別居となるケースもあります。
また、生活費を支払わず、他方配偶者が困窮となるケースもあります。

2 家庭内別居と仮面夫婦

関係は悪化しているが離婚はしていない夫婦について、家庭内別居の他、仮面夫婦という言葉が用いられることがあります。
仮面夫婦は、実際には夫婦関係が悪化・破綻しているにもかかわらず、対外的に仲睦まじい夫婦を演じることをいいます。
客観的に見れば仮面夫婦は、夫婦関係に何ら問題がなさそうですが、実際には家庭内別居と同じく夫婦関係に問題を抱えた状態といえます。

3 メリットとデメリット

では、家庭内別居を行うメリット・デメリットはどのようなものがあるのでしょうか。

(1)メリット

家庭内別居は、いずれか一方が自宅を出るものではないことから、余分な生活費がかからず経済的負担が小さくて済むメリットがあります。
また離婚をすれば氏名を変更する等、必要な手続きが必要となる一方、家庭内別居を行うことでこのような面倒な手続きを避けることが可能となります。
また、離婚は子どもが成人してから等、離婚を先送りにしたい人にとっては、家庭内別居そのものがメリットとなることもあります。

(2)デメリット

家庭内別居とはいえ、一方配偶者と自宅で遭遇し、それがもとで精神的負担となることもあります。
また直接遭遇しなくても、家庭内において相手方の一挙手一投足が生活面から垣間見え、ストレスの原因となることもあります。

4 子どもへの影響

子供がいる場合は、本来父母が協力して子育てをする必要があるところ、一切話さないといった状況を垣間見ることで、子供にとって多大なストレスとなる可能性があります。

5 家庭内別居のルールの決め方

家庭内別居を継続するにせよ、離婚を前提に協議を進めていくにせよ、夫婦関係をそれ以上悪化させないためには、最低限のルールを作ることが有効です。
では具体的にどのようなルールを定めればよいのでしょうか。

(1)適度な距離感を保つ

全くコミュニケーションを取らないということは、同じ場所で生活を行う者としては適切ではありません。
とはいえ通常のような密接な夫婦関係を強いれば紛争が勃発する可能性も否定できません。
そこで、最低限会話を行うべき分野を定めたり、自宅内で共有して使用可能な空間を定めておく等、一定のコミュニケーションを取りつつ、双方の領域も確保し、適度な距離感を保つことも効果的です。

(2)役割分担

双方、全く相手方のことを考えずに独立して行動すれば、家庭内において新たなトラブルが勃発する可能性が高まります。
そのため、最低限の役割分担(掃除、ゴミ出し、食事の用意等)について定めておくことも有用です。

(3)子どもとの接し方の取り決め

子どもにとって父母が不仲で会話も行わなければ、多大なストレスを感じることとなります。
そのため、家庭内別居を行うとしても、子供の前では夫婦間で会話をする、一緒に食事をとる等、子供の前では通常の夫婦生活を行っているよう装う、というルール作りもあります。
また、子供がある程度理解できる年齢の場合は、着地点について子どもも交えて家族会議をすることも効果的な場合があります。

(4)最終的なゴールの設定

ルールを定めて実行すれば、それが生活習慣として固定化されるケースが多くあります。
そのため何ら目標を定めることなくルールのみを定め、ルールが固定化されれば、家庭内別居を解消することは困難となります。
ルールを作るにあたって、家庭内別居の解消に向けてなのか、離婚に向けてなのか、ゴールを定めておいた方がいいです。

6 生活費は請求できる?

家庭内別居の中でも、生活費を別々とし、夫婦間の扶養義務に反している場合、家庭内別居であっても生活費の請求は可能です。
但し、同じ場で生活していることから光熱費等については一部先行して負担してもらっているとして、通常の別居に比べて婚姻費用が低額となることもあります。
婚姻費用は、一般的に収入の低い方から多い方に対して請求可能となります。
また相手方が任意に支払ってくれない場合は、婚姻費用調停を家庭裁判所に申し立てることとなります。
調停で協議が整わない場合は、審判となり、裁判所が何かしらの判断を下すこととなります。

7 家庭内別居中の不倫

また、家庭内別居は直ちに夫婦関係破綻の原因とは認められませんが、家庭内別居の行為態様や期間等によっては、夫婦関係が破綻していると認められるケースがあります。
そのような場合、仮に一方が不貞行為を行っていたとしても、破綻後の不貞行為にあたり賠償請求が認められなかったり、仮に認められても損害額が低くなる可能性もあります。

8 離婚を前提とした家庭内別居

家庭内別居を行っていても、修復することが可能なケースもあります。
一方で、修復ではなく離婚を選択したほうが、双方のためになることもあります。
現在家庭内別居を行っている方は、改善の方向に進めるのか、離婚の方向に進めるのか、改めて検討してみてはいかがでしょうか。
夫婦関係改善、離婚いずれの道に進むにせよ、これから最善の方策を取るためにも、一度我々弁護士にご相談下さい。


執筆者:弁護士 稲生 貴子

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