中小企業も対象!パワハラ防止法
2023/7/26
2022年4月1日から「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(通称 パワハラ防止法)が、大企業だけでなく中小企業にも適用され、全ての企業でパワハラ防止措置が義務付けられました。
このパワハラ防止措置について、どのような対策を行っていくべきか、解説いたします。
1 パワーハラスメント防止法とは?
2020年、職場における嫌がらせ・いじめを防止するため、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(通称 パワハラ防止法)が施行されました。
施行直後は大企業のみ対象でしたが、2022年からは中小企業も適用対象となりました。
2 対策が必要な背景
(1)コンプライアンスの重要性
パワハラ防止法に違反した際の罰則はありませんが、場合によっては行政機関から「勧告」「指導」の対象となります。
また当然のことながらパワハラを放置等すれば企業の責任を追及されることにもなります。
場合によっては企業価値を損なう事にもなりかねません。
パワハラ防止措置を行うことは、企業の発展のためにも不可欠のことといえます。
(2)新たなコミュニケーション問題の増加
コロナ禍でリモートワーク、オンライン会議等が増えたことから、社内におけるコミュニケーションの取り方も一変しました。
機動性が増えるといったメリットがある一方、コミュニケーションが取りづらい、オンライン会議の中で指摘されると多くの面前で叱責されたと感じる等、これまでにない新たな問題が発生しています。
3 中小企業もパワハラの防止措置が義務化
では、具体的にどのようなパワハラ防止措置を講じる必要があるのでしょうか。
(1)「中小企業」の定義
「中小企業」であるかは、主に資本金や従業員数で区別されますが、業種によっても異なります。中小企業基本法では下表のように定義されています。
(中小企業庁HP https://www.chusho.meti.go.jp/soshiki/teigi.html )
(2)「パワハラ」の定義
「パワハラ」とは、具体的にどのような行為を指すのでしょうか。
厚生労働省が示す職場におけるパワハラの定義によれば、パワハラとは、職場内における行為のうち、
① 優越的な関係を背景とした言動
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
③ 労働者の就業環境が害されるもの
の3要件を満たすものをいいます。
また、職場におけるパワーハラスメントに関して雇用管理上講ずべき措置等に関する指針の中でパワハラは以下の6類型に分類されています。
4 パワハラ防措置の内容とは
-
パワハラに関する相談があった場合は、必要な措置をとらなければならない
-
相談者のプライバシーを守り、相談内容を基に不利益な取扱いをしてはならない
となります。
企業は、「雇用管理上必要な措置」を講じる必要があります。
では、「雇用管理上必要な措置」とは具体的にどのようなことをいうのでしょうか。
これについては、2019年11月に示された「職場におけるパワーハラスメントに関して雇用管理上講ずべき措置等に関する指針」にて具体的な措置の内容が記載されています。
(1)事業主の方針の明確化およびその周知・啓発
中小企業において、まず行うべきパワハラ対策は、「規則の整備」と「会社がパワハラ対策を講じていることについて、従業員に知ってもらうこと」となります。
規則の整備においては、就業規則等で①パワハラの禁止、②パワハラに対する懲戒、③パワハラに関する相談・苦情への対応策を記載することとなります。
すでにセクハラに関する就業規則等がある場合には、当該規則に追記するかたちでも構いません。
規則の整備に不安がある場合は、弁護士か社労士にご相談下さい。
ハラスメント防止に関する規程を就業規則に追記した後は、従業員への説明や周知を忘れず行いましょう。
(2)相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
従業員からハラスメントに関する相談があった場合等、企業では適切な対応が求められています。
厚生労働省から推奨されている方法としては、
①従業員からの相談(一次窓口)⇒②事実確認⇒③行為者・相談者への取るべき対応策を検討⇒④行為者・相談者へのフォロー⇒⑤再発防止策の検討、があり、これらを実行できるような社内の体制整備が必要となります。
なお、相談窓口は外部のものを利用することも可能です。
また、同時に従業員が相談できる体制を整備することも大切です。
(3)職場におけるパワハラの事後の迅速かつ適切な対応
従業員から相談があった場合は、まずは相談内容について「ハラスメント相談記録票」などに記録し、相談者の了解を得たうえで「事実確認」を行う必要があります。
対応は迅速に行いましょう。
(4)被害者への対応
事実確認の内容については、担当者と会社の間で迅速に共有し、被害者の精神状態等を考慮したフォローの他、行為者に対しては場合によっては何らかの処分を行う必要があります。
相談を受けた際に被害者から「死にたい」など、自殺を暗示するような言動が認められるケースがあります。
その場合には窓口担当者だけで対応することなく、産業医等の医療専門家に引き継ぐことも検討してください。
そのためにも、ハラスメント相談窓口を設置する際に、あらかじめ産業医と相談しておいてもよいでしょう。
(5)行為者への対応
パワハラの内容次第で、注意や指導、相談者への謝罪の他、人事異動、懲戒処分が考えられます。
企業秩序の維持や被害者のフォロー等も踏まえて、適切な処分を実施いたしましょう。
(6)再発防止措置
パワハラが発生してしまった場合、再発を防止することも重要です。
パワハラが起こった原因や問題を分析し、単に当該事件問題で終わらせるのではなく、会社として再発防止のため何ができるかを検討いたしましょう。
再発防止の例として、
-
パワハラ防止に関する研修・講習の実施
-
管理者に対して、当該パワハラ行為及び対応結果について報告し注意喚起
-
加害者に対する定期的な面談
といったものが挙げられます。
5 対策に取り組むメリット
パワハラ防止法によりパワハラ防止策が義務付けられ、負担に思われる会社もあるかと思います。
しかしながらパワハラ防止策は、会社にとっても以下のメリットを享受できます。
(1)コミュニケーションの活性化
コロナ禍により直接のコミュニケーションが少なくなる期間があり、まだ以前のようなコミュニケーションをとるまで回復していない場面も多々あります。
そのような中、会社だけでなく従業員全員でパワハラに関して意識することで、相手への思いやりを持ち、風通しのいい風土形成にもつながることとなります。
(2)離職率低下
風通しのいい社内風土を持った会社は、自ずと対内的トラブルも減り働きやすい環境ができることで、従業員の離職率が減少する傾向にあります。
(3)課題や問題解決の端緒となる
パワハラ行為は個人の問題にとどまらず、会社の労働環境が影響し生じることもあります。
例えば、長時間労働が常態化していることから従業員が疲弊し、他の従業員に対してパワハラを行う、といったケースもあります。
このようにパワハラ防止措置を講ずることは、社内における諸問題解決の端緒となり得ます。
6 まとめ
以上のことから、パワハラ防止法に罰則はないものの、対策を講じることは会社の今後の発展にもプラスになります。
弊所では多種多様な会社の法律上のトラブルから、経営上のアドバイスまで幅広くサポートを行っています。
パワハラ防止措置を講じることはもちろんのこと、これからの会社発展のためにも、一度ご相談下さい。
執筆者:弁護士 稲生 貴子
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