有責配偶者からの離婚請求
2023/7/18
離婚問題において「有責配偶者」という言葉を耳にされたことがある方も多いかと思います。
「有責配偶者」とは、婚姻関係破たんの原因について主として責任のある配偶者をいい、代表的なものとして不貞やDV加害者である配偶者をいいます。
今回、有責配偶者の立場から離婚を行う際に気を付けるポイントについて見ていきましょう。
なお、下記では主に民法上の離婚原因と裁判離婚における法律論を念頭においています。
有責配偶者であっても協議による離婚は可能ですので、その点はご留意ください。
1 有責配偶者からの離婚請求が認められるケースとは?
(1)離婚訴訟において離婚が認められるためには
離婚訴訟において離婚が認められるには、法定離婚事由(裁判離婚~法定離婚事由~)必要となります。
この法定離婚事由を作った張本人である有責配偶者からの離婚請求については、原則認められません。
離婚の原因を作り、相手方を傷つけたうえで、相手方に離婚を強制することは道義的にも許されない、と考えるからです。
要は、自分で離婚の原因を作っておきながら、勝手なことは許さないよ、ということですね。
とはいえ有責配偶者からの離婚は絶対に認められないのでしょうか。
(2)有責配偶者からの離婚請求の条件
有責配偶者からの離婚請求であっても、次の3つの条件をクリアすれば離婚が認められることがあります。
①既に夫婦関係が破綻しているとき
②経済的に自立できない子供がいないとき
③相手の生活保障をしっかりと行い、過酷な状況に置かれないとき
2 有責配偶者からの離婚請求が認められないケースとは?
原則、有責配偶者からの離婚請求は認められません。
また有責配偶者であることにつき時効はないことから、時間の経過によって有責配偶者という立場が消滅するものではありません。
とはいえ、不貞を行い有責配偶者となった後、長期間経過し夫婦関係が正常に戻ったといった事情がある場合は、有責性は認められない場合もあります。
3 有責配偶者が離婚する方法
では、有責配偶者が離婚するには、どうしたらいいのでしょうか。
(1)既に夫婦関係が破綻しているとき
長期間にわたる別居を行っている等、既に夫婦関係が破綻しており、修復可能性がない場合には、離婚が認められるケースがあります。
そのため、離婚を見据えて別居を開始することも一つの方法といえます。
別居については、一般的には7年~8年以上継続していることが必要であり、家庭内別居や単身赴任による長期間別居では破綻しているとは認められません。
また一方的に別居すると、夫婦の同居義務に反し違法であると主張される場合もあります。
離婚を見据えた別居を開始する場合、まずは弁護士にご相談下さい。
(2)経済的に自立できない子供がいないとき
親には子どもを扶養する義務があることから、監護が必要な子どもがいる場合は、有責配偶者からの離婚請求は認められません。
なお子どもが18歳以上であっても、大学生等、自立して生活することが難しい場合は、未成熟の子どもがいるとして有責配偶者からの離婚が認められないケースがあります。
もちろん、未成熟の子どもがいる場合に、必ずしも離婚が認められないわけではありません。
生活保障をしっかり行うことで、離婚が認められる場合もあります。
子どもがいるけど離婚できるのかお悩みの方も、一度弁護士にご相談下さい。
(3)相手の生活保障をしっかりと行い、過酷な状況に置かれないとき
相手方が専業主婦であったり、介護が必要な家族がいるといった場合には、離婚によって精神的・経済的に厳しい状態に追い込まれる可能性が高くなります。
このような相手方に対して、離婚後も継続して経済的援助を行う等し、離婚後の生活が十分に保障される状況にあれば、有責配偶者からの離婚請求も認められる場合があります。
実際には財産分与や慰謝料の点で調整することが多いですが、どの程度経済的負担を行う必要があるかについては、ケースバイケースとなります。
ご自身のケースで離婚が可能か否か、離婚するとしてどの程度経済的負担を要するかお悩みの方は、一度弁護士にご相談下さい。
4 まとめ
上記の(1)~(3)の条件を全てクリアする場合には、有責配偶者であっても離婚請求が認められるケースがあります。
全ての条件をクリアすることは直ちに難しい場合であっても、離婚成立に向けて計画を立てることも可能です。
「有責」と一言で言っても、そこに至る事情には様々な事情があります。
有責配偶者であるからといってご自身からの離婚請求を直ちにあきらめる必要はありません。
離婚に向けた戦略を立てるためにも、一度ご相談下さい。
執筆者:弁護士 稲生 貴子