資産家のための債権管理・債権回収

2023/7/5

1はじめに

資産家は、様々な場面で貸付けをしなければならない場面に遭遇すると思います。
今回は、そのような方の債権の管理や債権回収の方法について説明いたします。

2ポイント

債権の管理や債権回収の際のポイントは、
①回収可能性を期待すべきか否か
②税務上の問題の検討の必要性
③幅広い担保の検討
④貸金業法違反に注意すること
の4つが挙げられます。
以下ポイントごとに具体的に見ていきましょう。

3①回収可能性を期待するか否か

資産家は、単に金銭を貸して利息を得るという通常の貸付けの場合のみならず、様々な場面で貸付けをする場面があると思います。
その場面ごとに、回収可能性を期待すべきか否かを考えて貸付を行う(あるいは貸付を行わない判断をする)必要があります。

⑴回収可能性が低い者に対する貸し付けの場合

例えば、回収を期待できない相手に貸付けをする場合は、事実上贈与しているに等しいと言えるでしょう。
そのような場合に、借用書に利息の記載を設けてしまうと、実際には利息を受け取っていないにもかかわらず、所得税が課税される可能性があるので、初めから利息の約束をしないという判断も必要です(この点は②とも関連します)。
そもそも、回収可能性が期待できなければ、貸さないという選択肢が浮かぶと思いますが、従前の人間関係から、貸したくなくてもご自身では断り切れないという方もいらっしゃると思います。
そのようなケースでは、自分では決められないとして、第三者(例えば顧問税理士や弁護士など)に話してほしいと持ち掛け、当事者間でやり取りをしないという方法が有益でしょう。

⑵資金繰りのための貸付の場合

資産家の方は、出資先会社の資金繰りが上手くいっていないことを理由として、次回資金調達のための貸付(いわゆるつなぎ融資)を求められる場合もあります。
この場合は、経営者の説明を鵜呑みにするだけでなく、資金調達の確度や回収可能性の有無などについて、経営者の説明の裏付けとなるエビデンスをよく確認して貸付けの意思決定をする必要があります。
また、万が一任意での回収が困難になった場合には、法的措置をもって回収することが可能ですが、回収のために法的措置を採ったことが投資家界隈で広がると、今後の活動に支障が出るおそれもあるので、法的措置を採るか否かを含めて検討する必要があります。

4②税務上の問題の検討の必要性

「①回収可能性を期待するか否か」で述べたこととも関連しますが、税務上の問題も検討する必要があります。
資産家が、資産管理会社名義で貸し付けるか、資産家個人名義で貸し付けるかで、税務上の取扱いが変わってきます。
例えば、資産管理会社から個人に対して無利息貸付を行った場合は、金利相当額が収入利息及び寄付金として認定されます。
他方で、資産家個人名義で法人に対して無利息貸付を行ったとしても、貸付側に課税関係が生じません。
したがって、無利息貸付を行う場合は、個人名義で貸し付けた方が良いでしょう。
税務上の問題の詳細は税務の専門家である税理士にご相談ください(弊所では、税理士の紹介も可能です。)。

5③幅広い担保の検討

貸付時には、回収可能性を高めるために、幅広く、担保を設定できないか検討しましょう。
連帯保証人を付けることや、不動産に抵当権を設定することのみならず、法人への貸付の場合は、知的財産権、動産や株式、債権への担保設定、資産家自身も事業を営んでいる場合は、借主にサービスを提供させ、その対価を反対債権として相殺することも検討しましょう。

6④貸金業法違反に注意

資産家は、様々な場面で貸付けをしなければならないことから、複数回、複数人に対して貸付けを行っている場合があります。
その場合は、貸金業法違反に問われないように注意しなければなりません。
例えば、無利息の貸付や、1回の貸付であっても、それが反復・継続して行う意思に基づいたものだと評価されれば、貸金業にあたる可能性もあり、登録なく貸金業を行った者は10年以下の懲役若しくは3000万円以下の罰金、又はこれの併科となります。

7債権回収の方法

返済が滞った場合、まずは話し合いにより支払を求めます。
返済が滞っている以上、額面通りの返済は困難な状況と思われますので、利息を優遇したり分割払いを認めるなどして、結果的に少しでも多く回収できるようにするのがポイントです。
抵当権等の担保権が設定されている場合は担保権の実行、保証人が設定されている場合は保証人に対する請求も行います。
任意に支払わない場合は、訴訟提起を検討します。
現時点では支払い能力はなく、返済が厳しい場合でも、将来支払い能力が回復する見込みがある場合などは判決を取得しておくことに意義があります。
また、訴訟提起をして債権回収の本気度を示すことで、支払の優先順位を上げるという効果も見込めます。

8おわりに

今回は、資産家の債権の管理や債権回収の方法について説明いたしました。
何気なく行っている貸付であっても、一歩間違えれば税務上の不利益や、刑事上の不利益を受ける可能性がありますので、貸付を行う際には、税務面については税理士に、法務面に関しては弁護士に相談されることをおすすめします。