個人再生手続と住宅ローン
2023/6/14
借金の返済ができずに何らかの手続を行っていく際、特定の債権者(例:貸主)に対する返済を優先的に行うことはご法度とされています。
これは、債権者平等という考え方に基づき、特定の債権者のみを優遇して返済することは原則として許されないとされるためです。
ところが、この考え方を貫きますと、住宅ローンを組んで住宅を購入している場合、住宅ローンの返済のみを続け、住宅ローン以外の借金のみについて解決を図るということもできなくなります。
そこで、個人再生において、住宅ローンについて特別な扱いを認める制度が用意されています。
今回は、個人再生における住宅資金特別条項(いわゆる住宅ローン特則)について説明します。
1 住宅資金特別条項(住宅ローン特則)って?
住宅ローン特則は、正式には、住宅資金貸付債権に関する特則における「住宅資金特別条項」のことを指します。
住宅ローンは、自宅を購入する際に組まれる借金です。
住宅ローンを組む際には、自宅の土地や建物に金融機関の抵当権が設定されます。
抵当権とは、民法が定める担保の一つで、借金の返済が滞った場合、貸主が抵当権の設定をした財産を換価することで、借金の回収を優先的に図ることができる権利をいいます。
そのため、住宅ローンを滞納すると、自宅に設定された抵当権を実行され、自宅から立ち退かなければならなくなります。
住宅ローン特則は、これを避けるため、住宅ローンの債権者に抵当権の実行をさせず、住宅ローンのみは今まで通り支払いを続けていくことを認めるものです。
2 住宅資金特別条項(住宅ローン特則)が認められる要件
住宅ローン特則は、一定の要件を満たしていなければ利用することができません。
(1)個人再生手続の要件を満たしていること
住宅ローン特則を利用するためには、個人再生手続の中における「再生計画」に住宅資金特別条項を盛り込んで、この再生計画を裁判所に認可してもらう必要があります。
そのため、前提として、個人再生の各要件を満たし、再生計画が認可してもらえる状態となっている必要があります。
(2)住宅の購入やリフォームのために借りた資金であること
住宅ローン特則で特別扱いを求める債務は、住宅の建設や購入、リフォームのために借り入れたものでなければなりません(民事再生法196条3号)。
したがって、事業用の借入れについては対象になりません。
(3)不動産に住宅ローン以外の抵当権がついてないこと
冒頭で述べた抵当権について、住宅に住宅ローン以外の抵当権が付されていないことが必要です(民事再生法198条1項但書)。
住宅以外の不動産にも抵当権が付されているときは、その抵当権の後順位に他の抵当権者がいないことも必要です(民事再生法198条1項但書)。
ここにいう「住宅」とは、自己の居住の用に供する建物であって、その床面積の2分の1以上に相当する部分が専ら自己の居住の用に供されるものを指します(民事再生法196条1号)
このような建物が二つ以上ある場合は、そのうち再生債務者が居住の用に供する一つの建物に限られます(民事再生法196条1号)。
(4)本人が所有している住宅であること
住宅ローン特則の対象となる住宅は、再生債務者本人が所有していなければなりません(民事再生法196条1号)。
ここでいう「所有」は単独でなくても構わないとされており、「共有」であっても再生債務者が共有持分を有しているのであれば住宅ローン特則の利用は可能です。
(5)本人が居住の用に供する住宅であること
住宅ローン特則の対象となるのは、再生債務者本人が居住の用に供する住宅でなければなりません。
そのため、投資用に購入した住宅や、自分は既に住んでいない住宅は対象となりません。
3 住宅資金特別条項(住宅ローン特則)の注意点
住宅資金特別条項(住宅ローン特則)を盛り込んだ再生計画が認可されるとしましても、次の点には注意が必要です。
(1)税金を滞納しない
税金の滞納がありますと、滞納処分として住宅が差し押さえられる可能性が生じます。
これでは、せっかく住宅資金特別条項(住宅ローン特則)が認められても、住宅を手放すことになってしまいます。
滞納した税金は、個人再生手続をもってしても減額させることはできず、随時弁済しなければなりません(民事再生法122条2項)。
そのため、税金の滞納がある場合は、住宅資金特別条項(住宅ローン特則)を利用するかどうかは要注意です。
(2)住宅ローンを滞納しない
住宅資金特別条項(住宅ローン特則)を用いる場合、住宅ローンの滞納が既に生じているときは利用が難しくなります。
住宅ローン特則を用いたいときは、住宅ローンの滞納を起こす前に弁護士に相談していただき、住宅ローンだけは支払えるという状態で手続に臨む必要があります。
4 まとめ
住宅資金特別条項(住宅ローン特則)は、多重債務の状況の中で、住宅を残すために用意された制度です。
利用するためには、上記に述べたような注意が必要です。
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住宅ローンを抱えながら、借金問題に悩んでいる方は、ぜひ一度、弊所にご相談ください。
執筆者:弁護士 隅田 唯
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