お隣さんとのトラブルについて

2022/10/31

 

法律の世界では、相隣関係という言葉があります。
相隣関係とは「お隣さんとのトラブル」に関する規定です。

日々の生活を営むにあたってお隣さんとの関係に悩まされることもあるかと思います。
2021年民法改正により、「相隣関係」に関して3つの改正がなされました。

(1)隣地使用権について

(2)ライフラインの設備設置権等について

(3)越境した枝の切取りについて

これら3つの改正についてみていきたいと思います。

1  隣地使用権について

隣地使用権とは読んで字のごとく「隣地」を「使用」する権利です。
改正によりこの隣地使用権についてあいまいだったものが明確化されました。
では条文が改正によってどう変わったのか確認してみましょう。

改正後民法第209条(隣地の使用)
1項 土地の所有者は、次に掲げる目的のため必要な範囲内で、隣地を使用することができる。ただし、住家については、その居住者の承諾がなければ、立ち入ることはできない。
1号 境界又はその付近における障壁、建物その他工作物の築造、収去又は修繕
2号 境界線の調査又は境界に関する調査
3号 第223条第3項の規定による枝の切取り

2項 前項の場合には、使用の日時、場所及び方法は、隣地の所有者及び隣地を現に使用している者(以下この条において「隣地使用者」という。)のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。

3項 第1項の規定により隣地を使用する者は、あらかじめ、その目的、日時、場所及び方法を隣地の所有者及び隣地使用者に通知しなければならない。ただし、あらかじめ通知することが困難なときは、使用を開始した後、遅滞なく、通知することをもって足りる。

4項 第1項の場合において、隣地の所有者又は隣地使用者が損害を受けたときは、その償金を請求することができる。

改正前民法209条(隣地の使用請求)

1項 土地の所有者は、境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕するため必要な範囲内で、隣地の使用を請求することができる。ただし、隣人の承諾がなければ、その住家に立ち入ることはできない。

2項 前項の場合において、隣人が損害を受けたときは、その償金を請求することができる。

改正前と後の条文を見比べてみると赤字の箇所が変更点です。
まず「請求」という文字が消えたことがわかります。これが何を意味するのか簡単に説明します。
この「請求」という言葉の意味を分かりやすく説明すると「誰かに何かをしてもらうようお願いする」ということです。
改正前には、次のような問題が存在していました。

例えば、新しく家を建てようと考えているAさんと、建設予定地の隣の空き地を所有するBさんがいました。
Aさんは建設にあたり、どうしても隣の空き地の一部を使わないと困る事情があったとします。
そうするとAさんはBさんに対して「家を建てたいので必要な範囲内で土地を使わせていただいてもよろしいでしょうか?」という趣旨の請求ができるのですが、Bさんから返事が来るまでは工事が進められないことになります。
あくまで「請求できる(お願いできる)」だけなので、実際に「使用」できるかどうかは不明確になります。
これでは念願のマイホームまであと少しというところで足踏みしてしまいますね。
これが改正後になると、「…必要な範囲内で、隣地を使用できる」ので、先ほどの例であった請求をしなくともAさんは隣地を使用して工事を進めることができるということです。
もっとも、改正後も、隣地所有者が工事を妨害している場合、それを勝手に排除して工事を進めることは自力救済として違法とされるので、工事妨害の差止め判決を得る必要がある点に注意が必要です。

しかし、改正後の条文に従い「…必要な範囲内で、隣地を使用できる」からといって急に隣人が工事をし始め、必要だからと庭の花壇でも踏み荒らされた日には土地を使用される側からしても堪ったものではありません。
そこで、改正後の条文には隣地所有者、隣地使用者への配慮をしましょうという規定が追加されました。
これが新しく追加された第209条2項3項です。
先ほどの例でいうと、Aさんは使用日時、場所及び方法はBさんのために最も損害の少ないものを選択し(改正後第209条2項)かつ、あらかじめ、その目的、日時、場所及び方法をBさんに通知しなければなりません。(改正後第209条3項)

以上例を挙げて簡単に説明してみましたが、改正後209条1項2号3号が追加されたことで使用目的も一部拡張されていますのでご確認ください。
また、住居であれば、住人の方の承諾がなければ立ち入ることはできませんし、隣地を使用したことにより隣地所有者や隣地使用者に損害を与えた場合には、償金を請求されてしまいます。これは改正前後でも変更はありません。

2 ライフラインの設備設置等について

こちらは新しく2つの条文が新設されたものです。条文を確認してみましょう。

第213条の2(継続的給付を受けるための設備の設置権等)

1項 土地の所有者は、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用しなければ電気、ガス又は水道水の供給その他これらに類する継続的給付(以下この項及び次条第1項において「継続的給付」という。)を受けるため必要な範囲で、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用することができる。

2項 前項の場合には、設備の設置又は使用の場所及び方法は、他の土地又は他人が所有する設備(次項において「他の土地等」という。)のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。

3項 第1項の規定により他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用する者は、あらかじめ、その目的、場所及び方法を他の土地等の所有者及び他の土地を現に使用している者に通知しなければならない。

4項 第1項の規定による権利を有する者は、同項の規定により他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用するために当該他の土地又は当該他人が所有する設備がある土地を使用することができる。この場合においては、第209条第1項ただし書及び第2項から第4項まで〈隣地の使用〉の規定を準用する。

5項 第1項の規定により他の土地に設備を設置する者は、その土地の損害(前項において準用する第209条第4項に規定する損害を除く。)に対して償金を支払わなければならない。ただし、1年ごとにその償金を支払うことができる。

6項 第1項の規定により他人が所有する設備を使用する者は、その設備の使用を開始するために生じた損害に対して償金を支払わなければならない。

7項 第1項の規定により他人が所有する設備を使用する者は、その利益を受ける割合に応じて、その設置、改築、修繕及び維持に要する費用を負担しなければならない。

 

第213条の3

1項 分割によって他の土地に設備を設置しなければ継続的給付を受けることができない土地が生じたときは、その土地の所有者は、継続的給付を受けるため、他の分割者の所有地のみに設備を設置することができる。この場合においては、前条第5項の規定は、適用しない。

2項 前項の規定は、土地の所有者がその土地の一部を譲り渡した場合について準用する。

 

長い条文ですが、簡単に解説したいと思います。

①設備設置権・使用権の明確化

第213条の2の1項は、ガス、水道、電気等の供給やインターネットや電話などの電気通信(その他これに類する継続的給付)を受けるに際して、他人の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用しないことにはこれらのサービスを受けられない場合には、必要な範囲で、他人の土地に設備を設置したり、他人が所有する設備を使用する権利があることを明文化したものです。

②場所、方法の限定

第213条の2の2項には、設備の設置・使用の場所、方法は、他の土地及び他人の設備のために損害が最も少ないものに限定されています。
第209条2項にも同じ規定がありましたね。
また第213条の3は、土地の分割、一部譲渡により、他の土地に設備を設置しなければ継続的給付が受けられない土地が生じた場合には、他の分割者や譲渡者の土地のみに設備を設置できると規定されています。

③事前通知の規律の整備

第213条の2の3項には設備の設置・使用しようとする者は、あらかじめ、その目的、場所、方法を他の土地、設備の所有者に通知しなければならないと規定されています。これも第209条3項と同じですね。

④償金、費用負担の規律の整備

第213条の2の4項5項は、他の土地に設備を設置する際に所定の損害が生じた場合は償金を支払う必要があることを明示したものです。

 

①~④をまとめますと、

「ガスや電気などのライフラインを引き込むために、他人の土地を使わないといけない人は、必要な範囲で使っていいですよ。(①第213条の2の1項)ただし、目的、設備の設置・使用の場所、方法をあらかじめその他人に対して通知をして(③第213条の2の3項)かつ、設備の設置・使用の場所、方法はその他人又はその他人の土地の損害が最小で済むように配慮しましょう。(②第213条の2の2項)そしてその設備設置や使用により生じた損害に対して1年ごとでもいいから償金を支払いなさい(④第213条の2の4項5項)。」ということです。

3 越境した枝の切取りについて

最後は枝の切除に関してです。こちらも条文の確認からいきましょう。

 

改正後民法第233条(竹木の枝の切除及び根の切取り)

1項 土地の所有者は、隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。

2項 前項の場合において、竹木が数人の共有に属するときは、各共有者は、その枝を切り取ることができる。

3項 第1項の場合において、次に掲げるときは、土地の所有者は、その枝を切り取ることができる。

1号 竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当期間内に切除しないとき。

2号 竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。

3号 急迫の事情があるとき。

4項 隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる。

 

改正前民法第233条(竹木の枝の切除及び根の切取り)

1項 隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。

2項 隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる。

 

この改正は2項と3項が追加されただけで1項4項(改正前2項)は同じ内容が規定されています。
どんな内容が追加されたのか簡単に説明すると2項は「竹木を数人で共有している場合の規定」で、3項は「自分でその枝を切除できる」という規定です。
特にこの3項ができたことにより竹木の枝の切除に関するお隣さん問題がスムーズに解決できるようになります。

改正前では、お隣さんの庭から自分の庭に邪魔な枝が一本侵入していた場合に、切りたいと思ってもお隣さんに頼むことしかできず、もしお隣さんが応じてくれない場合には、わざわざ訴えを起こして、枝を切りなさいという内容の判決を得て、さらに強制執行手続きを経なければその一本を排除できなかったのです。
しかし改正後は、①竹木の所有者に侵入してきた枝を切除してくれと催告をしたにもかかわらず、竹木の所有者が相当期間内に切除しない場合、②竹木の所有者が誰なのかわからない場合、③急迫の事情がある場合には、自分の土地に侵入してきた枝を土地所有者自ら切除することができるようになります。一定の要件を充たせば、自分で対処できるようになったのはありがたいですね。

4 まとめ

以上3つの改正点について簡単にかつ起こり得る問題に絞り説明しましたが、いかがでしたでしょうか。
昔ほどご近所さんとの距離が近くない現代社会において、些細なトラブルが大きな問題へと発展しかねません。
今回は、相隣関係についてピックアップしてみましたが、民法にはそんな身近なトラブルに関する規定がいくつも記載されていますので、みなさまも気になることがあれば法律を調べてみてはいかがでしょうか。お困りの際にはいつでも当事務所までご相談ください。


監修者:弁護士 隅田 唯

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