相続登記の義務化~義務化に至る経緯と放置した場合のリスク~

2021/9/27

こんにちは。

不動産の所有者がお亡くなりになった場合に、相続した人に名義変更を行う手続のことを「相続登記」といいます。

これまで「当事者の任意」に任せられていたこの手続が、「民法等の一部を改正する法律」(令和3年法律第24号)及び「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」(令和3年法律第25号)の成立により2024年から義務になります。

怠った場合には罰則等のペナルティが課されますので、皆さんにお知らせすべく、今回は義務化に至った経緯と起こり得るリスクについてご説明します。

1義務化に至った経緯

これまで、相続登記は義務ではありませんでした。

そのため、子どもが実家を離れて生活しており、両親が亡くなってしまった場合に、土地・山林・農地があったとしても使うことがなかったり、登記をする際にかかる登録免許税、固定資産税、維持管理費などのコストを負担したくなかったりする場合に、相続登記を行なわない方が増えたそうです。

その結果、登記をせず長期間放置され、「所有者不明」もしくは「所有者に連絡がつかない」土地が増加しました。

 

国土交通省によれば「不動産登記簿等の所有者台帳により、所有者が直ちに判明しない、又は判明しても所有者に連絡がつかない土地」を所有者不明土地と定義しています。

現在の所有者不明土地は、全国で410万haに上ります。

これは、日本全土の20.1%にあたり、九州本島を上回る面積(!)です。

このままのペースでいくと、2040年には720万haを超えるとも言われています。

(ちなみに北海道本島は約780万haです。)

 

 

所有者不明土地は、国や自治体が

・公共用地として買収ができない

 ・災害対策の工事ができない

民間人同士では

・売買ができない

 ・活用ができない、抵当物件として利用できない

などの問題が発生します。

 

そこで、所有者不明土地の発生を防ぎ、円滑かつ適正に利用するための仕組みを整備するため、国会内で「相続登記」や「氏名又は名称及び住所の変更登記」の義務化などが検討されていました。

そして、「相続登記を義務化する改正案」を閣議決定し、2021年4月21日に可決成立しました。

2024年からの施行を予定しています。

2改正された点と起こり得るリスク

大きく改正されたのは、以下の4点です。

 

①相続登記の義務化と罰則の制定

②所有者の氏名住所に変更があった場合の変更登記の義務化と罰則の制定

③法務局による所有者情報取得の仕組みの制定

④土地の所有権放棄の制度化

 

1つずつ見ていきましょう。

(1)相続登記の義務化と罰則の制定

不動産の所有者について相続があったときは、相続により不動産の所有権を取得した者は、相続の開始及び所有権を取得したことを知った日から3年以内に不動産の相続登記をしなければなりません。

これに違反すると10万円以下の過料の対象となります。

これは、遺言などの遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権を取得した者も同様です。

これに伴い、相続登記はこれまで、基本的に相続人全員ですべきものとされていましたが、登記申請の促進のため、単独で申請できる(単独申請)ようになりました。

 

なお、万が一、相続開始から3年以内に遺産分割協議が完了せず相続登記ができない場合は、以下の方法を取れば、一時的に過料を免れることが可能です。

・法定相続分による相続登記をする

・期間内に自分が相続人であることを法務局へ申請

(2)所有者の氏名住所に変更があった場合の変更登記の義務化と罰則の制定

登記上の所有者の住所・氏名・名称変更についても義務化されます。

その登記簿上の住所や氏名、名称の情報が更新されておらず、現在の居所がわからないことも所在不明土地の原因とされているからです。

所有者である個人または法人の氏名(名称)や住所(本店)に変更があった場合、その日から2年以内に変更登記をすることが義務化され、これを怠った場合は5万円以下の過料が課されます。

 

なお、この住所等の変更登記義務化は相続登記義務化と同様に法改正後に発生した住所等の変更のみならず、法改正以前から住所等の変更登記をしていない不動産についても適用があります

相続が発生してから登記をしていない土地がある方は、2024年の施行までに、お手続きを済ませておきましょう。

(3)法務局による所有者情報取得の仕組みの制定

また、法務局が住民基本台帳ネットワークシステムや、会社などの法人情報を管理する商業・法人登記のシステムから所有者の氏名及び住所についての変更の情報を把握したときは、法務局の判断で、その住所、氏名などの変更登記ができるようになります。(ただし、所有者が個人の場合には、個人への意向確認と本人からの申し出が必要です。)

個人の生年月日は登記簿には記録されませんが、法務局内部において、氏名、住所、生年月日などの情報を元に住民基本台帳ネットワークシステムに定期的に照会及び検索するためのキーワードとして利用される予定です。

(4)土地の所有権放棄の制度化

相続で土地を取得した場合、その所有権を放棄して土地を国庫へ帰属させる(国のものにする)ことができるようになります。

遺産の中には、相続しても売却が難しい土地や、所有していても利用方法がない土地などもあります。

そのような土地を相続してしまうと、所有権を放棄できず、ずっと固定資産税などを払い続けなければいけなくなります。

現在の法律では、土地だけを相続放棄することはできません。

そのため、相続したくない土地があっても、現金など相続したい財産があれば相続放棄することはできないのです。

法改正によって、不要な土地だけの所有権放棄が認められれば、相続時に土地の所有権だけを放棄して、他の遺産は相続するという方法を取ることが可能になります。

なお、この制度の利用には、審査手数料のほか、10年分の土地の管理費を負担金として納めなければなりません。

(ちなみに、現状の国有地の標準的な管理費用(10年分)は、粗放的な管理で足りる原野で約20万円、市街地の宅地(200㎡)で約80万円といわれています。)詳細については、今後政令で定められる予定です。

3 相続登記の義務を果たすには?

相続登記の義務について、義務化の経緯や変更点についてお話しました。

最後に、具体的に義務を果たす方法を4つご紹介します。

(1)3年以内に相続人全員の共有登記をする

相続が発生して自分が所有者になったことを知ったら、3年以内に「法定相続人全員の名義の共有登記」をすれば、相続登記の義務を果たしたことになります。

ただし、後日遺産分割協議をして、相続人の一人の単独名義とする予定がある場合、この方法は、あまり良い方法とは言えません。

後日、遺産分割協議に基づいて相続人の一人の単独名義とするためには、もう1度登記を行う必要があるので二度手間となる上、名義変更に必要な「登録免許税」を、2回支払わなければならないことになるからです。

また、法定相続人の共有名義で登記をすることは、権利関係が将来複雑化するなどの問題点があります。

後日遺産分割協議をするのではなく、相続人全員が、共有名義での相続登記を希望する場合にのみ、「法定相続人全員の名義の共有登記」をされるとよいでしょう。

(2)3年以内に遺産分割協議をして相続登記する

相続が発生して自分が所有者となったことを知ったら、3年以内に遺産分割協議を行って、確定した相続人が相続登記をしましょう。

これが、相続登記をする場合の、最もコストのかからない一般的な方法といえます。

ただ、3年以内に遺産分割協議がまとまらないケースも少なくありません。

その場合には、次の相続人申告登記を利用されるとよいでしょう。

(3)相続人申告登記をする

相続が発生して自分が相続人となったことを知っても、すぐに遺産分割協議ができないケースも少なくありません。

その場合、法務局で「相続人申告登記」をしましょう。

そうすれば3年以内の相続登記申請義務を果たしたことになります。

その後遺産分割協議が成立したら、その時点から3年以内に相続登記しましょう。

(4)相続放棄する

不動産を相続したくないなら、相続放棄するのも1つの対処法です。

相続放棄したら相続人ではなくなるので、相続登記義務化の規定は適用されません。

相続放棄は、家庭裁判所に申請を行う必要があります。

(相続放棄の詳細はこちら

4最後に

いかがでしたか?

2024年の施行以降、現在相続登記されてない方にも、ペナルティが課されることがあるので注意が必要です。

相続は手続も煩雑で、お金が絡んでくるので揉め事になることが多いです。

今後、相続が発生したら、できうる限りお早めに、弁護士にご相談されることをお勧めします。

弊所では司法書士の先生もご紹介できますので、相続登記の対応及び遺産分割について、お役に立たせていただきます。

 

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