離婚の際に決めておくべきこと(後編)
2021/3/15
みなさん、こんにちは。
離婚の際に決めておくべきこと(前編)では、離婚の種類と離婚原因について説明させていただきましたが、(後編)の今回は、本題である離婚の際に決めておくべきことについて説明させていただきます。
1 離婚をするときに決めないといけないこと
では、離婚をするときに決めないといけないこととしてどのような事項があるでしょうか?
(1)法律上決めなければならないとされていること
まず、法律上、離婚をするときに決めなければならないとされているのは、父母の一方を親権者と定めることだけです。
現状の日本のルールでは、離婚後の夫婦による共同親権は認められていませんので、父母のどちらか一方を親権者として決めなければいけません。
(2)親権者以外に決めておくべき事項
親権者以外に決めておくべき事項としては、
①財産分与
②慰謝料
③養育費
④面会交流
⑤氏の変更
があります。
これらは離婚後に求めることもできますが、離婚時に定めておくことで離婚の際の交渉材料として用いることができます。
また、氏の変更についても、あわせて説明しておきたいと思います。
①財産分与
財産分与は、離婚時の夫婦の財産を2分の1ずつに分けるのが基本です。
財産分与の対象には、夫婦の一方が単独で有する特有財産は含まれません。
たとえば、婚姻前に貯めた預貯金や相続で取得した財産などです。
生命保険や近い将来に受け取れる可能性の高い退職金も財産分与の対象になってくるので注意が必要です。
②慰謝料
慰謝料は離婚によって精神的苦痛を被った配偶者の損害を回復するものです。
慰謝料は離婚によって当然に発生するものではありません。
たとえば、先ほど述べた性格の不一致による離婚の場合、それだけでは慰謝料が発生しないということもあり得ます。
③養育費
養育費とは、未成熟子の監護に要する費用のことです。
婚姻中には配偶者の扶養義務もあるので、配偶者+子どもの分の生活費を求めるのに対し、離婚後は子どもの分だけを養育費として定めることになります。
養育費については、2019年12月に、全国の家庭裁判所で用いられる養育費の算定表が16年ぶりに改定されました(こちらについては養育費・婚姻費用の新算定表が公開されました!をご覧ください。)。
ただ、養育費の取決めをしていたとしても実際に養育費を受け取れているのは少数にとどまっていました。
このような養育費の不払い問題については、民事執行法が2020年4月に改正され、(強制執行認諾文言のある)公正証書でも財産開示制度が利用できるよう申立権者の範囲が拡大されました。
また、裁判所に出頭しなかった場合等に刑事罰(6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金)が科されるようになりました。
そして、第三者からの情報取得手続として、市町村等から給与債権の情報の取得(勤務先の有無、その名称及び住所)、金融機関から預貯金再検討に係る情報の取得(預金の有無、取扱店舗名、預金の種別・口座番号、残高)ができるようになりました。
④面会交流
面会交流とは、子どもと別居親とが、面会したり、別居親宅に宿泊したりして、親子間の交流を図ることをいいます。
面会交流については、「養育費は必要であるものの別居親に会わせたくない。」という相談を受けることもあります。
しかし、別居親としても、面会交流を実施することは養育費を支払っていくモチベーションにも繋がります。
夫婦が離婚したとしても親子関係は継続します。同居親が別居親のことを悪く言えば、子どもはそれを敏感に感じ取るものです。
自分の半分を否定されていると感じることにもつながりかねません。子どもの健全な成長を促すためにも面会交流は実施していくべきです。
面会交流については、支援してくれる団体※も存在しますので、最初はサポートを受けながら、最終的には自分たちだけで面会交流を実施できるようになるという方法もあります。
※:公益社団法人家庭問題情報センター(FPIC)、NPO法人ハッピーシェアリング等
⑤氏の変更
婚姻により改姓した方は、離婚により旧姓に戻ります。
婚姻時の氏を引き続き称する場合には、離婚の日から3か月以内に市区町村に婚氏続称届(離婚の際に称していた氏を称する届)を届け出る必要があります(離婚届と同時に提出することも可能です。)。
離婚時に子どもがいる場合、子どもが成人するまでは婚姻時の氏を称し、成人後に旧姓に戻したいという方もいらっしゃいます。
しかしながら、このような場合に旧姓に戻すためには、家庭裁判所に氏の変更を申し立てる必要があり、変更には「やむを得ない事由」が必要になります。
子どものために婚姻時の姓を称していたが、子どもが成人したという事情は、「やむを得ない事由」があると認められるための要素にはなりますが、これだけで直ちに旧姓への変更が認められるわけではないので注意が必要です。
(3)書面化について
以上説明してきた事項について、書面化しておくこともあります。書面化しておくことで権利義務関係を明確にしておくことができます。
方法としては、合意した事項を離婚協議書としてまとめておく方法もあれば、公正証書、調停調書、確定判決により書面化することもあります。
離婚協議書としてまとめておくだけであれば、作成に時間も費用もかかりません。
しかしながら、任意に履行してもらえない場合、離婚協議書をもって強制的に求めていくことはできません。
改めて訴訟を提起して支払いを求めていくこととなります。
強制執行をするには、債務名義といわれるものが必要となりますが、離婚協議書は債務名義にならないからです。
これに対し、強制執行認諾文言という条項を付けた公正証書、調停調書、確定判決は債務名義になるので、改めて訴訟提起することなく、強制執行を行うことが可能になります(単に公正証書というだけでは債務名義になりません。)。
2 まとめ
以上のように、離婚をするにあたっては、さまざまなことを決めなければならず、その内容も複雑なものとなってきます。
一時の感情で離婚してしまう前に一度弁護士に相談してみてはいかがでしょうか?
一人で悶々と悩むのは長く、辛く、苦しい戦いです。
わたしたちと一緒に解決策を見つけていきましょう!
執筆者:弁護士 稲生 貴子