不毛な戦い?アデランスvsアートネイチャー
2020/1/14
こんにちは。弁護士の森本です。
令和2年が幕を開け、一段と寒さが増してきていますね。
紅葉のシーズンも終わり、樹の枝から葉が抜け落ちてくるのを見ていると、思わず自分の頭皮を押さえたくなる衝動に駆られます。
おかしなこと言ってます?僕
そんな気持ちを理解できるハゲ・・・もとい、ハイレベルな方にも、まだ理解できないローレベルな方にも興味をもってもらえるような判例があるので、こちらをご紹介します。
1 不毛な戦い第1章
登場する会社は、どちらも有名なかつらの製造販売業者である、アデランスとアートネイチャーです。
アデランスは、元々生えている髪の毛とカツラをピンで留めて固定するという技術で特許を取得していました。そして、アデランスは、ライバルのアートネイチャーがこの技術を無断で使ってかつらを製造したとして、特許権侵害訴訟を起こします。
この訴訟では、後に両者は和解することになります。
和解の条件は、
①今後アートネイチャーはアデランスの技術を使ったかつらの製造販売をしない
②約束を破った場合はアデランスに1000万円の違約金を支払う
というものでした。
不毛な戦いはこれで円満に解決したかに思われました。
2 不毛な戦い第2章
ところが、その後アートネイチャーは約束を破り、アデランスの技術を使ったかつらを作って顧客に販売してしまいます。そして、アデランスは、アートネイチャーが和解の条件に反したとして、違約金の支払いの強制執行をしようとしました。
これに対して、アートネイチャーは異議を唱え、最高裁まで争うことになります。
結果として、最高裁は、アデランスの強制執行は認めないと判断しました。
なぜアートネイチャーは約束を破ったにもかかわらず、アデランスの強制執行は認められなかったのでしょうか?
実は、アートネイチャーがアデランスの技術を使ったかつらを売った顧客は、アデランスが差し向けた関係者だったのです。
この関係者は、アデランスの指示のもと、アートネイチャーにかつらの製作を依頼し、製作がかなり進んだ段階で、アデランスの技術を使った方法によるかつらの製作を強く要求します。要求どおりのかつらが製作できない場合は、解約したいなどと言われたアートネイチャーは、拒みきれず、アデランスの技術を使ったかつらを作ってしまったのです。
法律上、上記のような事例に直接対応する規定はありません。
しかし、民法130条には、以下のような規定があります。
第130条
1 条件が成就することによって不利益を受ける当事者が故意にその条件の成就を妨げたときは、相手方は、その条件が成就したものとみなすことができる。
2 条件が成就することによって利益を受ける当事者が不正にその条件を成就させたときは、相手方は、その条件が成就しなかったものとみなすことができる。
この規定は、条件が成就(アートネイチャーが和解条件に違反)することによって不利益を受ける当事者(アートネイチャー)が故意にその条件の成就を妨げたときの規定なので、今回のケースに直接あてはめることはできません。
しかし、最高裁は、上記の事情を考慮し、条件が成就(アートネイチャーが和解条件に違反)することによって利益を受ける当事者(アデランス)が故意に条件を成就させた場合は、民法130条を類推適用(130条の考え方を応用すること)するという法律構成で、アートネイチャーを救済しました。
3 おわりに
いかがでしたか。
これだけかつらの話をしたら、思わず自分の頭皮を押さえたくなる衝動に駆られませんか?
おかしなこと言ってます?僕
それはさておき、法律の世界では、この判例のように、一見すると約束を破って非があるようにみえても、逆転することが可能なケースはよくあります。
ですので、何かトラブルを抱えてお困りの方も、諦める前に弊所にご相談ください。
逆転する方法を一緒に考えます!
執筆者:弁護士 森本 禎