事務局便りvol.51(罪の境界)
2023/7/27こんにちは。
事務局のMです。
すっかり夏本番、強烈な日差しが目にも肌にも痛い季節ですね。
直射日光が苦手な私は、この季節、扇風機から送られてくる生ぬるい風にあたりながら(ちなみに強い冷房も苦手です)、本を読んで過ごすことが多いです。
今日は、最近読んで心にズシンときた本があったので、ご紹介したいと思います。
薬丸岳 『罪の境界』
薬丸岳さんは、私が好きな作家のひとりです。
単なる謎解きではなく、犯罪のその後、犯罪に翻弄される人物の人生そのものを描く作家さんです。
薬丸岳さんの小説は「骨太な」という表現が言い当て妙だと、私は感じています。
犯罪によって人生を翻弄される登場人物は、被害者であることも、加害者であることもありますが、『罪の境界』では、その両方の人物が描かれます。
物語は、とある若い女性(明香里)が、恋人との約束をすっぽかされ、その帰り道に通り魔事件の被害者となるところから始まります。
全身をナイフで刺されたトラウマから些細な物音にも怯え、安眠を求めてお酒におぼれ、感情をコントロールしきれずに護身用に隠し持っていたナイフを家族にむけてしまうシーンでは、心をギュッと握りつぶされたような感覚がありました。
ギリギリのところで思いとどまった明香里は、家族を傷つけてしまうことを恐れ、その後、家族の前から姿を消します。
一方の加害者は、その幼少期、実母に虐待を受けながら育った人物で、自らを被告人とする刑事裁判において、全ては母のせいだと告白することにより、実母への復讐を果たそうとします。
非常に心に響いたのは、物語の終盤、明香里が裁判で被告人に対して放った一言です。
たとえどのような理由があろうと、人は罪を犯してはならない。
人には決して超えてはならない罪の境界がある。
図らずも家族にナイフを向けてしまい、すんでのところで思いとどまった明香里だからこそ、説得力をもって言えた言葉だと思います。
折しも先日、芸能人の市川猿之助さんが、自殺ほう助の疑いで逮捕されました。
死がご両親の真実の望みであったのであれば、それを叶えることがご本人のため、なのかもしれません。
でもやはり、そこには「人として」超えてはならない罪の境界があったと思うのです。
そんな世事のタイミングも重なり、久々にグサッときた小説でした。
薬丸岳さんの小説は、『罪の境界』のほかにも、『告解』『刑事弁護人』などもおすすめです。
暑苦しい夏、冷房の効いた涼しい部屋で、骨太な小説にノックアウトされる感覚をぜひ味わってみてください。