民事執行法改正(令和元年5月17日公布、令和2年4月1日施行)について(ダイジェスト版)
2020/1/27
こんにちは。
弁護士の前川です。
今回は民事執行法の大きな改正がありましたので、ダイジェスト版でご紹介いたします(施行は令和2年4月1日)。
1 債務者財産の開示制度の実効性の向上
金銭の支払を求める裁判で勝訴しても、債務者が金銭を支払わない場合、強制執行によって債務者の財産を差し押さえる必要があります。
そして、強制執行の申立てには、債権者の側で、執行の対象となる債務者の財産を特定しなければなりません。
債権者が債務者財産に関する情報を取得するための制度として、平成15年の民事執行法改正の際、財産開示手続が創設されましたが、債務者が財産開示に応じないことが多いこと等から、必ずしも実効性が十分でないとされていました。
そこで、今回の改正では、財産開示手続の実効性を向上させるために、(1)債務者以外の第三者からの情報取得手続の新設、及び(2)財産開示手続の罰則強化が行われました。
(1) 債務者以外の第三者からの情報取得手続
この制度では、裁判所への申立てにより、債務者の財産の情報を、債務者以外の第三者から得られるようになりました。
また、現行制度では、申立権者が確定判決等を有する債権者等に限定されていましたが、公正証書により金銭の支払を取り決めた者等も利用できるようになりました。
これによって、たとえば、預貯金の情報を銀行から得たり、不動産の情報を登記所から得たりすることができるようになります。
また、養育費を支払ってくれない債務者の勤務先の情報を、市町村や年金機構から得られるようになります。
(2) 財産開示手続の罰則強化
現行制度では、債務者が出頭拒否、宣誓拒否、開示拒否、虚偽開示をした場合の罰則は30万円以下の過料ですが、新制度では、6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金と罰則が強化されました。
2 不動産競売における暴力団員の買受防止の方策
現行制度では、暴力団員等の不動産競売における買受け自体を制限する規定がないのですが、警察庁によると、約200の暴力団事務所の物件が、不動産競売の経歴があるとされています。
そこで、新制度では、裁判所の判断により暴力団員、元暴力団員、法人で役員のうちに暴力団員等がいるもの等が買受人となることが制限され、また、暴力団員等でない者が、暴力団員等の指示に基づき買受けの申出をすることも制限されました。
3 国内の子の引渡しの強制執行に関する規律を明確化
現行制度では、子の引渡しの強制執行に関する明文規定がなく、動産に関する規定が類推適用されており、また、子の引渡し等をしなければならない債務者の同席が必要とされていました。
そのため、債務者に居留守をつかわれると、必ずしも実効性がないとされていました。
今回、民事執行法及びハーグ条約実施法が改正され、一定の要件を満たせば、間接強制(引き渡さない場合に金銭の支払を命じる等の方法によるもの)の手続を経ずに、直接的な強制執行を申し立てることができるようになりました。
また、直接的な強制執行の場面で、債務者の同席が不要とされ、代わりに子の引渡し等を求める債権者が執行の場所に出頭することが原則化されました。
4 その他の見直し
(1)差押禁止債権をめぐる規律の見直し
その他、債務者が、差押命令の取消しを求める制度としての差押禁止債権の範囲変更の制度の存在を、裁判所書記官が債務者に対し教示することが規定され、また、差押禁止債権の範囲変更の申立てのための準備期間が1週間から4週間に伸長されました。
(2)債権執行事件の終了の規律の見直し
債権執行事件において、債権者が取立ての届出等をせずに2年以上漫然と事件を放置し続けている場合に、執行裁判所の決定により事件を終了させる仕組みができました。
5 まとめ
以上が、令和2年4月1日に施行される改正民事執行法の概要となります。
特に、債務者財産の開示制度の見直しにより、勝訴判決を得たのに、債務者の財産がわからないから泣き寝入りするという事態が減るのではないかと、期待されます。
離婚の際の公正証書で、養育費を取り決めたのに支払われないと諦めていた方などは、一度ご相談にお越しいただければと思います。
執筆者:弁護士 前川 恵利子