離婚において親権が争点になった場合の実務上の取り扱いについて

2019/7/24

こんにちは。
配偶者との離婚を考えた際に、未成年の子の親権を父母のどちらがもつか、という点について、気がかりに思われる当事者の方は多いのではないでしょうか。
今回は、離婚において子の親権が争点となった際、その判断において、実務上はどのような点に着目されているのかなどについて、ご説明いたします。

1 親権とは

親権とは、未成年の子を看護教育するために、子の父母に認められた権利義務のことをいいます。
親権の具体的内容は、子の身分に関する「身上監護」と子の財産に関する「財産管理」に分類されます。
身上監護権には、子どもに対して親がしつけをする権利や、子どもの居所を指定する権利などが含まれます。
また、財産管理権には、包括的な財産の管理権と、子どもの法律行為に対する同意権が含まれます。
これらをすべてまとめて、親権といいます。

2 親権者の指定

親権者の指定は、簡単にいえば、子の親権者が誰であるかを決めることです。
父母が婚姻中には、父母が共に親権を行使するため、親権者指定の問題は生じませんが、離婚などの場合には、親権者指定の問題が生じます。
未成年の子を持つ父母が、協議離婚または裁判離婚をする場合には、必ず親権者の指定をしなければなりません(民法819条1項2項)。

3 親権者指定の基準

親権者指定にあたっては、法律上は具体的な基準は定められていませんが、父母双方の事情や、子の事情などを総合的に考慮して、決定されるべきものとされています。
具体的には、以下の事情が考慮されています。

(1)現状尊重の基準

特段の事情がない限り、既に監護を続けている者が引き続き監護すべきであるという考え方です。
監護養育者の変更は、子の心理的不安定をもたらすおそれがあることを理由とします。
実務では、この基準は他の基準より優先される傾向にあります。
しかし、この基準を強調しすぎると、実力行使による子の奪い合いが生じる危険もあります。

(2)母親優先の基準

乳幼児については、特別の事情がない限り、母親による監護養育が優先されるべきであるという考え方です。子の幼児期における生育には、母の愛情と監護が不可欠であることを理由とします。

(3)子の意思の尊重の基準

子が15歳未満であっても、意思能力のある子の意思はできるだけ尊重されるべきであるという考え方です。
実務では、満10歳以上の子の意思が尊重される傾向にあるといわれています。

(4)兄弟姉妹不分離の基準

兄弟姉妹は、可能な限り同じ親によって監護されるべきであるという考え方です。
兄弟姉妹が生活を共にすることによってお互いに得られる経験は、人格を形成する上で大きな価値があり、兄弟姉妹は分離すべきではないことを理由とします。
これらの他に、離婚原因となった事情(不貞行為や暴力行為など)を考慮するかどうかも問題となります。
不貞行為は、倫理的に非難されているものの、直ちに親権者として不適格であるとはいえないと考えられています。
他方で、暴力行為は、子の目の前で配偶者に暴力をふるうなどの事実があれば、子の健全な育成に悪影響を与える可能性が大きいので、親権者としての不適格性につながることもあります。

4 親権者と監護権者の分離について

これまで述べたように、現在の民法では、離婚の際には、父母のどちらが親権者となるかを決める必要があります。
しかし、子の親権をどちらが持つかについて当事者同士の意見が合致せず、協議や調停が不成立となり、訴訟となってしまうことも少なくありません。
そこで、「親権者と監護権者の分離」という方法がとられることもあります。
これは、父または母の一方を親権者とし、他方を監護権者とする考え方です。
多くの場合、父親を親権者とし、母親を監護権者とする方法がとられてきました。
しかし、このような分離は時に子にとって混乱や問題が生じることもあり、親権者と監護権者を別々にする必要があるような特別の事情がある場合に、例外的に用いられているようです。

5 共同親権について

日本では、単独親権制度が用いられていますが、諸外国には、「共同親権」という制度が採用されている国もあります。
共同親権とは、父母の両方が子の親権を持つ状態をいいます。
共同親権制度のメリットは、親権をどちらが持つかということについて父母が争う必要がなくなることや、子どもが父母の両方と関わることができることなどがあります。
他方で、デメリットとして、両親の教育方針などが異なるために子どもが混乱するおそれや、子どもが頻繁に父母の家を行き来する生活のせいで負担がかかることなどが挙げられます。
日本においても、政府が共同親権導入についての検討を始めているというニュースが報じられたこともあり、今後、法改正がされる可能性もあるといわれています。

6 おわりに

離婚は家庭の問題であるため、当事者同士の協議で進めることができるのであれば、それが最もよい方法だと思います。しかし、残念ながら、当事者同士の話し合いや調停がこじれ、紛争が長期化するケースもままあります。
そこで、弊所では、なるべく早い段階で弁護士にご相談いただくことをおすすめしております。
離婚に関するお悩みをお持ちの方は、是非お気軽にお問い合わせください。


執筆者:弁護士 稲生 貴子

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