ご存知ですか?「配偶者居住権」

2021/7/27

「配偶者居住権」という言葉はご存知でしょうか?

今日は2020年4月から認められるようになった配偶者居住権について、解説していきたいと思います。

1どんな権利なの?(配偶者居住権の概要)

あるところにおじいさんとおばあさんが、おじいさん名義の家に2人で住んでいました。

2人には子が1人いて、別の場所で生活しています。

おじいさんがお亡くなりになってしまい、相続が発生しました。

相続財産は、3000万円の家と、他の相続財産(預貯金等)が3000万円あります。

法定相続通りに分割するとなると、おばあさんと子で家もその他の相続財産も半分ずつ分けることとなります。

おばあさんは、住み慣れた家を絶対に相続したいと思っていますが、家を相続するとなると、他の財産が全て子に渡るため、おばあさんは生活費がなくなってしまいます。

また、子が家を相続するとなると、おばあさんは住む家に困ってしまいます。

おばあさんと子の折り合いがつかなければ、いつまでも相続できません。

 

その時に打開策となるのが、「配偶者居住権」です。

簡単に言うと、「相続が発生する前から住んでいた配偶者は、家を相続しない場合でも住んでいていい」という権利です。

この権利を利用すれば、おばあさんが家を相続しない場合でも、住み続けることができるのです。

2配偶者居住権の詳細

配偶者居住権とは、家の権利を「住む、使う権利」と「その他の権利」に分けて、別々の人が相続することを認める仕組みです。

この「住む、使う権利」を「配偶者居住権」といい、「その他の権利」を「配偶者居住権が設定された所有権」といいます。

 

先ほどのおばあさんと子の場合で言うと、3000万円の価値のある家を、配偶者居住権と、その他の権利に分けます。

おばあさん:配偶者居住権1500万円+他の相続財産(預貯金等)1500万円

子:家のその他の権利1500万円+他の相続財産(預貯金等)1500万円

と分けることができ、おばあさんは住居も今後の生活費も確保できますし、子も、「住む、使う権利」以外の権利を得ることができ、ちょうど半分に分けることができます。

 

他のパターンも見てみましょう。

例えば、上記と同じ登場人物で家の価値が5000万円、他の相続財産(預貯金等)が1000万円である場合、おばあさんと子で法定通りに遺産を分けようとすると、双方3000万円ずつになるはずです。

しかし、家は1つです。そのため、家を売却して分ける必要が出てくるかもしれません。

高齢であるおばあさんが家を売却し、新しい住まいを見つけることや、住み慣れない街に引っ越すことは時に大きなストレスになりかねません。

そんなときも、配偶者居住権という権利を行使すれば、子もおばあさんも安心です。

自宅の権利を「住む、使う権利」と「その他の権利」に分けて、おばあさんと子で2分することで、法定通りに分けることができますし、おばあさんは住み慣れた家に住み続けることが可能になります。

 

ちなみに、配偶者居住権等の評価については国税庁のHPで計算方法が紹介されていますので、こちら(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4666.htm)をご覧ください。

 

3配偶者居住権が成立するための条件とは?

配偶者居住権が成立するためには、以下1~3の要件をすべて満たす必要があります。

 

(1)残された配偶者が、亡くなった人の法律上の配偶者であること

(2)配偶者が、亡くなった人が所有していた建物に、亡くなったときに居住していたこと

(3)①遺産分割、②遺贈、③死因贈与、④家庭裁判所の審判のいずれかにより配偶者居住権を取得したこと(①は相続人の間での話合い、②、③は配偶者居住権に関する遺言又は死因贈与契約書がある場合、④は相続人の間で①遺産分割の話合いが調わない場合です。)

 

自身の死後、遺産分割協議にて配偶者居住権についての合意がまとまればよいのですが、相続人間で争いがある場合や、海外に住んでいる人がいるため話合いが進められず相続に時間がかかることが予想される場合など、残された配偶者の生活が心配になるかもしれません。

そんな時は、遺言書で配偶者に配偶者居住権を遺贈することで、確実に配偶者居住権を設定することができます。

4配偶者居住権が設定された所有権とは?

配偶者居住権が設定された所有権とは、その文字通り住む、使用する以外の家に関する権利のことを言います。

住む、使用する以外の権利なので、相続後に子が家を売却して、その売却代金を受け取ることも可能です。

それでは、家を売却した場合でも、おばあさんはその家に住み続けられるのでしょうか?

 

ここで一番重要になってくるのが登記です。

 配偶者居住権は、登記することによってできます

配偶者居住権は、2の成立要件を満たしていれば権利として発生していますが、登記を忘れていると、新しい所有者が勝手に売却してしまい、追い出されてしまう可能性があるため注意が必要です。

ちなみに配偶者居住権は、建物だけに登記がされます。建物の敷地となっている土地には登記されません。

 

もう1つ、配偶者居住権の特徴をあげると、この権利は売却、相続ができません

配偶者にだけ認められた特別な権利であるため、人に売却することはできません。

また、その配偶者の死亡によって消滅するため、相続させたりすることもできません。

5まとめ

今後、高齢化社会を迎えるうえで、残された配偶者が住み慣れた自宅を相続し、現預金も相続するために生まれたのが「配偶者居住権」です。

配偶者居住権については、取得する際の費用の計算方法や、相続税の関係など難しいことがたくさんあります。

突然の配偶者の方の相続で、家に住み続けられなくなるようなご不安のある方や、先立つ可能性がある際に配偶者の方の生活保障のために、配偶者居住権を与える遺言書の作成を検討したい方など、ぜひ一度ご相談いただければと思います。