【財産分与】退職金と年金分割

2023/6/6

離婚をする際には、婚姻中に夫婦で築いた財産を分け合うことができます。
このことを財産分与といいます。
財産分与の対象としてよく挙げられるのは預貯金や不動産などですが、今回は退職金や年金が財産分与の対象になるか、どのようにして分割をするのかなどについてお伝えします。

1退職金

退職金は財産分与の対象になり得ます。
退職金は、勤務先から退職後に受け取る金銭ですが、賃金の後払いという性質があり、その賃金は婚姻中の夫婦共同生活によって築いたものと評価できるので、財産分与の対象となり得ます。
もっとも、どんな時も財産分与の対象となるものではありませんし、常に退職金全額が対象となるものでもありません。
以下具体的に見ていきましょう。

(1)対象になる期間

退職金が財産分与の対象となるのは、婚姻中に働いていた期間に相当する金額になります。
例えば、婚姻後に就職し、退職後に離婚する場合は、婚姻期間中はずっと働いていたことになるので、退職金全額が財産分与の対象になります。
勤続10年目で結婚し、勤続30年目で離婚し、勤続40年目で退職した場合は、婚姻期間である20年に相当する退職金が財産分与の対象になります。

(2)退職金が既払いである場合

離婚時に退職金が既払いの場合は、退職金が残っている分のうち、婚姻中に働いていた期間に相当する金額が財産分与の対象になります。
退職金の全部または一部が残っていない場合は、財産分与の対象にはなりません。
もっとも、配偶者が浪費してしまった場合などは、他の財産の分与割合を増やしたり、慰謝料として受け取るなどして解決をすることがあります。

(3)退職金が未支給である場合

退職金が離婚後に支払われ、離婚時点では未支給の場合は、将来退職金が支給される可能性が高いと評価される場合は財産分与の対象となります。
例えば、既に近い将来退職が決まっており、会社の規定等から具体的な退職金額が予測できる場合は財産分与の対象になるでしょう。
他方で、まだ年齢が若く、退職が数十年後になるような場合では、将来勤務先が倒産したり、リストラや減給などの事情により、退職金が支給されるか不確実なので、財産分与の対象とならない可能性があります。
もっとも、現在の実務では、別居または離婚時に退職をした場合に支給される退職金を仮定的に算定し、それを財産分与の対象とするケースも見受けられます。

2財産分与で受け取れる退職金の計算方法

具体的に財産分与で受け取れる退職金の計算方法についで、具体例を挙げて説明します。

(1)退職金が既払いである場合

既に退職金が支払われている場合、財産分与の対象となる額は、「支払われた退職金×婚姻期間÷勤務していた期間」となります。
婚姻期間には通常別居期間は含めません。
例えば、退職金が2000万円、勤務していた期間が40年、婚姻期間が30年とすると、財産分与の対象となる額は、1500万円(=2000×30÷40)となります。
財産分与の割合は、通常2分の1とすることが多いので、財産分与を受けられる金額は750万円(=1500÷2)となります。

(2)退職金が未支給である場合

退職金が未支給の場合の計算方法は、主に①離婚時に退職したと仮定し、その時点で受け取れる退職金をベースに計算する方法、②将来受け取られる退職金をベースに計算する方法の2種類があります。

①離婚時に退職したと仮定し、その時点で受け取れる退職金をベースに計算する方法

例えば、離婚時点で退職すると仮定した場合の退職金が1000万円、勤務していた期間が20年、婚姻期間が10年とすると、財産分与の対象となる額は、500万円(=1000×10÷20)となります。
財産分与の割合を2分の1とすると、財産分与を受けられる金額は250万円(=500÷2)となります。

②将来受け取れる退職金をベースに計算する方法

これは、定年退職時に受け取れる予定の退職金から、婚姻前に勤務した期間と別居後に勤務した期間を差し引き、中間利息を控除して算出します。
中間利息とは、将来支払われる金銭の前払いを受ける場合に、受領時から本来受け取るべき時までに発生する利息のことをいいます。
要するに、将来受け取れる金銭を先に受け取ると、預金や運用等で利息を余分に得ることになるので、公平の観点から差し引くことにするというものです。

3退職金の財産分与の請求方法

離婚時に財産分与を行う場合、可能であれば、まず夫婦間で話し合って金額を決めます。
話し合いで解決が難しそうであれば、家庭裁判所に離婚調停を申立て、家庭裁判所で話し合いをすることになります。
それでも解決しない場合は、離婚訴訟を提起し、裁判所に判断を求めることになります。
離婚後であっても、離婚後2年以内であれば、財産分与を請求することができます。
この場合で、話し合いがまとまらない場合は家庭裁判所に財産分与調停を申立て、家庭裁判所で話し合いをすることになります。
それでも解決しない場合は、審判手続きに移行し、裁判官が判断します。

4退職金の使い込みを防ぐために(仮差押え)

退職金を既に配偶者が受け取っている場合、離婚や財産分与で紛争が生じて調停や訴訟をしている間に、配偶者が退職金を使い込んでしまうおそれがあります。
使い込みのおそれがある場合は、裁判所に仮差押えを申立て、退職金を使い込めないようにすることが有益です。

5年金分割制度とは

年金分割制度とは、離婚時に一方の配偶者の厚生年金保険料の婚姻期間中の納付実績を分割し、もう一方の配偶者に納付実績を付与する制度です。
年金分割の対象となるのは厚生年金部分のみであり、国民年金部分は対象とはなりません。
以下では、年金分割の種類や方法についてお伝えします。

(1)年金分割の種類

年金分割は、①合意分割と、②3号分割の2種類があります。

 ①合意分割

合意分割は、年金分割請求の際の按分割合を2分の1を上限として夫婦であった者の合意により定める方法です。
合意に至らない場合は、家庭裁判所が按分割合を決定します。

 ②3号分割

3号分割は、厚生年金の被保険者である配偶者の扶養に入っている場合に適用される分割方法です。
平成20年4月1日以降に扶養に入っている方が対象です。
3号分割は、合意や裁判をすることなく、年金事務所の手続きだけで、按分割合を2分の1として分割することができます。
もっとも、平成20年4月1日以前から扶養に入っている場合は、その期間は3号分割の対象とはなりませんので、別途合意分割をする必要があります。

(2)年金分割の方法

 ①合意分割の場合

合意分割の場合は、まずは夫婦間の話合いがまとまれば、合意内容を合意書や公正証書にし、年金事務所に提出します。
話し合いがまとまらなければ、離婚前であれば、家庭裁判所に離婚調停を申立て、家庭裁判所で話し合いをすることになります。
それでも解決しない場合は、離婚訴訟において、裁判所が判断することになります。
離婚後であれば、家庭裁判所に年金分割調停を申立て、家庭裁判所で話し合いをすることになります。
それでも解決しない場合は、審判手続きに移行し、裁判官が判断します。

 ②3号分割の場合

3号分割の場合は、当事者間の合意は不要ですので、分割を受ける当事者は年金事務所に書類を提出するだけで年金分割を受けることができます。

6まとめ

今回は、離婚時の退職金と年金分割の取扱いについてお伝えしました。
退職金は将来支払われる可能性や金額が争点になることが多いです。
また、年金分割はすぐに金銭が分与されるわけではなりませんが、将来の年金額に大きくかかわってくる重要なものです。
どちらも法的な知識や経験があるか否かで分与額に大きな違いが出ることもありますので、弁護士に相談されることをおすすめします。